帯に、「死を恐れない罪人を人は裁けるのか?」後世に残すべき傑作、的なコピーがあり、めくったら読みやすそうで読んでみた。

私の中の薬丸作品は、テーマが重たくその割にかなり読みやすいというものだが、今回もその通り。

物語は2人の男性を中心に進む。癌で残り僅かな命と知った男性が、自分の中の殺人衝動を解放すると決め、次々に殺人を犯してゆく。
独身で係累の少ない彼を引き止めていたものは、学生時代から関わるボランティア活動で知り合った子供たちと昔の彼女。一方でそれを追う警察官もまた癌で、こちらは亡くなった妻への想いから、執念で犯人を追う。
犯人側には未練と複雑な想いを持って寄り添おうとする昔の彼女が、警察官側には反発する娘が配置される。

ここまでお膳立てが揃ったらどれだけ複雑な展開が、と思うが、ここまでなのである。娘はダンサーを目指している、とかクラブに通っている、などの追加情報はあり、いくらかは進行にかかわるけれど、深入りはしない。
彼女も、彼の病を知って最後には彼を追い詰めるかと思われるも、ここでも踏み込むことはない。というかこちらはできないのだが。

なんなのかな、この消化の悪さ。

で、考えたのだがこれは、配置される登場人物がそれぞれ点で途切れてしまっているからではと。
サブキャラはそれぞれちゃんと割り振られてるのに、感情や行動でメインキャラクターに影響をほとんど及ぼさない。メイン2人もほとんどぶれないし向き合わない。メインの道のりが、非常に一辺倒に見えるのだ。

薬丸作品の良さは最初に述べたとおりの、テーマの重たさに比較して軽やかな読み口なんだけど、軽やかさが深掘りの足りなさになってしまうこともあるのかも。
今回の作品はやや、後者にもみえた。

むー。