- さらば長き眠り (ハヤカワ文庫JA)/原 りょう
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新宿署の錦織警部がドアを開けて入ってきた。
邪魔するぞ
断るまでもない
ここはすっかり見る影もなくなったな
いつここへ侵入した？
馬鹿をいうな。大昔のことをいってるんだ
昔を懐かしむのが目的なら、ひとの邪魔にならないところでやってくれ
どこへ行っていた？答えろ
そんな義務はない
ちかごろは弁護士の肩書きを詐称したりして不当に稼いでいるのか
依頼人という言葉を口にしただけで弁護士だと早合点してしまうような刑事が、刑事を詐称しているのではなく、本物の刑事だというのがよほど問題じゃないのか
フン、自分の眼の前にいるのが私立探偵などという馬鹿げたものだと誰がとっさに思いつくか。それを承知でやったんだから、明らかに詐称だ
いい加減にしてくれ、そんなつまらないことで、こんなところまでのこのこ出かけてきたのか
この灰皿は渡辺がこの事務所を開いたときに、おれが祝いに贈ったものだ。知っていたか。こっちは警備会社のようなちゃんとした仕事をやるんだとおもっていたからな。探偵事務所が聞いて呆れる
形ばかりの祝いとはよく言ったものだ。こんなに使いにくい灰皿はない。返してほしければいつでも持っていくがいい
誰がそんなことを言った！返してもらいたければ、渡辺本人からじかに返してもらう
そんなせりふは渡辺を捕まえてからにしてくれ
だから最初の質問に答えろ。一年以上ものあいだどこへ行っていた？