- 五分後の世界 (幻冬舎文庫)/村上 龍
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「オダギリというのは貴様か」
はい、と小田桐は返事をした。
「スパイとして処刑する」
「ここをどう思う?」
一言で言うと、と小田桐は答えた。
気に入った、
「気に入った?」
妙な顔で警備の責任者は聞き返した。
疲れたけどな、でも、あんたは知らないだろうけど、オレがもといたところはみんなひどいおせっかいで、とんでもねえお喋りなんだ、駅で電車を待っていると、電車に近づくな、危ないから、なんて放送があるんだぜ、電車とホームの間が広くあいてるから気を付けろっていう放送もある、窓から手や顔を出すなってことも言われる、放っといてくれっていってもだめなんだ、自分のことを自分で決めて自分でやろうとすると、よってたかって文句を言われる、
「よくわからんが」
そして、何度も液晶パネルに浮き出た文字を確認してから、散開している兵士に伝えた。
「こいつの処刑は中止だ」
来い、と小田桐をうながした。
どこへ、と小田桐が聞くと、トンネルへの通路を顎で示しながら答えた。
「地下司令部だ」