プシャッと控えめな音をたてて栓抜きに抜かれる栓。
栓は栓抜きからダイレクトにごみ箱に直行したり、カウンターの上で表になったり裏になったりしている。
ブラウンシュガー色の泡がグラスに積もる。
そして、瞬く間に漆黒の液体に吸い込まれる。
いささか速度が早すぎる気がする。
まるでアスファルトに積もり出した雪のように…
ひと口飲んでみる。
甘い水が喉を通過する。
小学生の頃に桃の缶詰を食べ終えた後、シロップを飲んだ思い出がよぎる。
みかんの缶詰ではない。
とても甘い液体。
いつから私は甘い液体を体内に摂取する為に炭酸が必要になったのだろう。
炭酸を飲まない日は控えめに考えてもない。
次々に抜かれる栓。
グラスに注がれた甘い液体。
これも震災の影響なのかもしれない。
震災は我々の仲間とエネルギーを根こそぎ奪っていった。
そして、希望だけが残った。
村上龍氏がそう書いていた。
震災はコーラの炭酸も我々から奪い取っていったのかもしれない。
つまり、いま飲んでいる甘い液体の中には希望が残っているはずだ。
その瞬間に甘い液体は希望を含んだ甘い液体に変化する。
そして、私は数回にわたり希望を含んだ甘い液体を体内に送り込んだ。