引き際 | Get up-joe. Stand up-joe!

Get up-joe. Stand up-joe!

How many ways do you know to free yourself ?

仕事を終え、自宅の最寄のバス停を降りると、昼間の熱気が今も居座っていた。
運動で掻く汗と、仕事で得意先を回りながら掻く汗はまったく異質なものだ。
前者はストレスを発散させ、後者は苛々を募らせる。
自宅の扉の前に立つと泣き声が聞こえた、すぐに鍵をねじ込みバスルームに駆け込む、脱衣所で泣いている桃華を抱っこして落ち着かせる。
汗で濡れた服を着替えようと思い、ベビーチェアーに桃華を寝かせると、背中スイッチがONになり泣き始める。
着替えられない…
しばらくするとバスルームの扉が開き正太郎が出てくる、桃華を妻にそっと渡し正太郎を連れてリビングへ、着替えさせ頭を拭き麦茶を飲ませる。
バスルームから妻に呼ばれ桃華をそっと受け取りリビングへ、身体を拭いて着替えさせる。
妻が風呂からあがってくる、入れ替わりに私も風呂に入り汗を流す。
食事を済ませ、正太郎とマイケルを踊り、身体がだるくなってきたので寝室で寝転ぶ。
そして、正太郎の終わりのみえないジャンプがはじまった。
仰向けに寝転んでいる私に走ってきてジャンプする正太郎を手で受け止めながら頭突きを顔に食らわないようによける。
20回ほど繰り返していると疲れてきたので、うつ伏せに寝転び寝たふりをしてみる。
背中に痛みを感じた瞬間、正太郎が笑いながら私の顔を覗き込む、走り去る、背中に痛みが走る。
正太郎のフライングニードロップは確実に脊髄や肩甲骨を狙い的確に私をエビ反りにする。
20回ほど繰り返し、そろそろ私の背中も限界を感じ羽毛布団を丸め、そこにジャンプするように指示する。
丸めた掛け布団の横に仰向けに寝転んでいると、正太郎がきれいに飛んでくる、着地するたびに壁にぶつからない様に支え、ハイタッチを交わす。
20回ほど繰り返した時、私はジャンプする前の正太郎に手をクロスにするように指示した。
正太郎は手をあげ頭のあたりで手をクロスにした。
そしてそのまま走り出した。
丸めた掛け布団の横で仰向けになり、スローモーションになった正太郎の動きを見つめる。
飛んだ!
フライングクロスチョップ
なんて美しいんだ
一瞬のうちに妄想が湧き上がる
私は覆面レスラーであり、昼間は喫茶店のマスターをしている、引退の覆面はぎデスマッチにやぶれ、覆面を脱ぐ、リングサイドで固唾を呑んでみまもる子供達からマスターじゃないかと声があがる、騒ぐ子供達の中に正太郎がいる、目をまんまるにしてリング上でスポットライトに照らされた私をみている…
終わったんだ
息子に譲る時がきた
明日は正太郎と一緒にスカイ・ハイを聞こう
そして正太郎の初めての入場を先導しよう
明日からリングの主役は正太郎だ!