小川洋子の「博士の愛した数式」の新潮文庫版が100万部を突破し、大ベストセラーになっている
発売後2ヶ月の1月30日現在で、104万部という快挙、映画の方も好調のようだ
http://www.sankei.co.jp/news/060130/bun093.htm

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世にも美しい数学入門 ネットで調べているうち、著者の小川と、小川が数学について教えを請うた数学者の藤原正行(文庫版の解説者)との対談集「世にも美しい数学入門」(ちくまプリマー新書)という本を見つけ、早速買って読んでみた


この本のなかで藤原は、数学というものは「実用にすぐ役立たない」「無益なもの」だと、まず「定義」している
だが、藤原は「数学には美がある」という


それを受けて小川は「(数学という)永遠の真理の美しさというのは、どんな文学でもどんな詩の一行でも表現できない」と語る


そして26年も初恋の人を思い続けた天才数学者の話やら、「博士の愛した数式」に出てきた「友愛数」や江夏の「完全数」の話、「フェルマー予想」と日本人の役割や「素数」を巡る「美」と「混沌」の定理、円と無関係に登場する「円周率(Π)」の話、それに数学は不完全だという「不完全性定理」の話などが次々と展開される


二人の丁々発止のやりとりが「面白い」、ではないな、そうこんな表現がいい、「素敵」なのだ
この本は、「美的感受性」を持った数学者と、感性豊かな作家が織り成した「知の結晶」のような「きらめき」を持つ


藤原言う
はたして人間は金儲けに成功し、健康で、安全で裕福な生活を送るだけで『この世に生まれてきてよかった』と心から思えるだろうか」と


『生まれてきてよかった』と感じさせるものは美や感動をおいて他にないだろう」と続け「数学や文学や芸術はそれらを与えてくれ」「もっとも本質的に人類に役立っている」と結論する


藤原のような考えは、青くさいなあ、とも思う

今の私にとって金はすごく大事だし、「金儲け」もしたい
「健康で、安全で裕福な生活」だって何より大切だ


だが、それだけが人生のすべてではない
このブログにしたって、金にもならないし、夜中にこうしてパソコンに向かって疲れるけれど、今のこの瞬間が楽しいし、充実している
生まれてきてよかった」と思う


本が好きな私には、やはりこうした時間が他の何物にも替えがたい

数学はちょと苦手だが、すくなくとも文学や芸術は私に「美」と「感動」を与えてくれる「本質的」に必要なものなのだ


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先日、「博士の愛した数式」について書いた感想は、この小説における数学の存在の大きさ、重さにあまり触れていないので、ちょっとピンぼけだったようだ
http://ameblo.jp/up-down-go-go/entry-10008463477.html


藤原は「世にも美しい数学入門」の方で、数学の魅力を「解けたときのよろこび」としているが、「博士の愛した数式」の中にも、1から10までの数を効率的に計算する方法を発見した時の「私」のこんな描写がある


その時、生まれて初めて経験する、ある不思議な瞬間が訪れた。無残に踏み荒らされた砂漠に、一陣の風が吹きぬけ、目の前に一本の真っさらな道が現れた。道の先には光がともり、私を導いていた。その中へ踏み込み、身体を浸してみないではいられない気持ちにさせる光だった。今自分は、閃きという名の祝福を受けているのだと分かった


小川洋子さん、素敵です