※注釈
ゲーム上の表記は。お姫様。となっていますが。
文章化に際して、分かりやすさを重視し。
お姫様をおひい様。
と、平仮名表記へ変更しています。

それと、アサヒの一人称は。某(それがし)。です。
カグヤの一人称は妾(わらわ)。となります。



メモリー①

主を陰ながらお守りする。
それが影の一族の務め。

某は影でした。
しかも将軍様の実子たる
おひい様の影であります。

おひい様は生まれる前から
命を狙われ、他のご兄弟は皆、
暗殺されてしまったそうです。
生き残ったのはおひい様のみ。

おひい様を生かすために
某たちは生まれたと言っても
過言ではありません。

かつて流浪の民だった
我らを受け入れ、
居場所をくれた主への
恩を返すためにも、
死んでも守るであります!

それが我ら影の一族の使命……



メモリー②

「影風情が気安く触れるでない。
 不敬であるぞ」

それがおひい様の第一声でした。
これは想像以上に難儀な……

そ、某はおひい様の影!
この程度で挫けたり
しないでありますよ!

おひい様の命令を我儘と
言う人もいたでありますが、
某には別のものに見えました。

だっておひい様はいつも……

ある日、
城内に暗殺者が忍び込みました。
当然某が退治したでありますが、
負傷してしまったです。
うぅ情けない……

だけどその時、おひい様が
某に駆け寄ってきたであります。

「大事ないか、アサヒ」

い、今、某の名前を……



メモリー③

某たちの名はないも当然。
影という呼称だけあればいいから。

だからきっと聞き間違い……

「妾の影ならば生きて役に立て。
 護るとはそういうことじゃ。
 良いな、アサヒ」

その時、某は初めておひい様の顔を
ちゃんと見た気がしました。

厳格な眼差しは
孤独と不安に揺れていて……

これがおひい様の素顔。
誰も見ようとしなかった、
おひい様の心……

――この人を
独りにしてはいけない。

「はい。生きて役に立ちます。
 貴女の影として」



メモリー④

おひい様も名前を呼ばれることなく
育ったと聞きました。
その名を呼ぶことは大変畏れ多く、
親族すら許されません。

「アサヒは特別に妾の名を
 呼ぶ事を許可してやろう」

そう、おひい様は某に
手を差し出してきましたが……
某は影。許されるわけがない。

「ダメですよ、おひい様。
 某は影なんですから」

そう某が言うと、
おひい様は寂しそうに微笑み、
「そうだな」とだけ言って
去ってしまいました。

それから数日後のことです。
何度目かの刺客との戦いで、
某は敵と相打ちになりました。

……まさか刃先に
毒を仕込んでいるとは。

これは、
助からないですね……

でもいいんです。
だって某はおひい様を
護ることが出来たんですから。

おひい様。
貴女の影になれてよかった。

さようなら、おひいさ……



メモリー⑤

あれ、生きてる?
どうして……
毒で死んだ筈じゃ……

目覚めた某が見たのは
不思議な霧と眠る人々。
そして杖の御仁でした。

杖の御仁は異国からやってきた
救世主?らしく、呪いを解いて
世界を廻っているそうです。

倒れていた某を
助けてくれたのも彼だそうです。
もし見つけても貰えなかったら、
某はあのまま……

彼曰くこの霧は悪魔に心を
囚われた魔女の所行で、
魔女の心を救えば呪いも
解けるとのことですが……

某には心当たりがありました。
霧に触れた時、聞いたのです。

――アサヒに会いたい。

あれはおひい様の声。
だったら行かないと。

それが、影の務めであります!



メモリー⑥

杖の御仁と共に某は
星見塔を目指しました。

奥に進む度、おひい様の心に
近づけた気がしました。
心をひた隠すようなこの霧は
きっとあの方の不安な心そのもの。

誰かの死を恐れながらも
平気なふりを続けたおひい様。
それを強さだと思い、
誰もその心に
触れようとしなかった。

某も同じです。
あなたの気持ちに気づかず……

でも今なら分かります。
あの時どうして
あんなことを言ったのか。

そして辿り着いた塔の頂で、
君臨するように、
その人はいました。



メモリー⑦

あの時、某はおひい様を
姫としか見ようとせず、
隣を歩くことを拒んでしまった。

でも本当は、
某も貴女の隣を歩きたかった。

おひい様、いえ……
カグヤ様!

「アサ、ヒ?」

おひい様がゆっくりと目を開く。
そして縋るように、
某に手を伸ばした。

ごめんなさい。
あの時、あなたの気持ちに気付かず、
逃げてしまい……
だけど……

「某はただのアサヒとして
 貴女の隣で生きます!
 だから戻ってきてください、
 カグヤ様!」

あの時は
触れられなかったその手を、
今度はしっかりと掴んだ。

――やっと、呼んでくれたな、
妾の名を。

心を覆い隠すような
霧が薄れ始め、
どこからか差し込んだ光が
霧を溶かしていった。

だけど安堵した瞬間、
カグヤ様が某の手を
払いのけました。

「自らの願いで国を滅ぼした妾に
 姫は名乗れぬ。じゃが……」

カグヤ様はもう一度
某に手を差し出し、
こう言いました。

「今の妾はただのカグヤ。
 それでも良いというなら……
 妾の隣で生きてくれるか?
 アサヒ」

某の中の影が囁きました。
影風情が畏れ多いぞって。
だけどその影を押しのけ、
某は答えました。

「はい。
 一生涯、あなたに捧げます……
 カグヤ様」