温暖な気候の松山には似つかわしくなく、その日は珍しく午後から雪がちらついていた…
一週間前当時中学生だった私に母が…
『X'masの日に母子家庭の子供達が集まってX'mas会があるみたいなんだけど、たまには参加してみる?お母さんもたまには一人の時が欲しいし…』と言われ…
そんなの行くわけないしと思いつつ、ふと先日街でたまたま母を見かけ、母親と二人で買い物をしていた新しい彼氏の事が頭を横切った。
なるほど…
しばらく考え…私は
『たまにはいいかもね…』と母に答えた。
実は子供ながら胸のうちはちょっぴり良いことをしたと、母親へのX'masプレゼントを逆に渡す感覚てあった…。
そして当日…
施設に向かうと、寂れた鉄筋コンクリートの2階建で、白熱球で薄暗く照らされた玄関は、まるで自分を地獄に誘うかの様だった…
このまま黙って帰ろうか?…
罪悪感もあったが、いたたまれない気持ちで背を向けようとした時、玄関口の引き戸が空き、中から叔母さん達が2・3人駆け寄って来た…
『待ってたわ!寒いからさぁ早く中へ入りなさい!』と背中を押され私は半分無理矢理案内された…
そこには幼稚園にある教室の様な小さな部屋が沢山あった…
ひとつの部屋入ると、十数人の小学生と中学生の男女がそこに居た…
なるほど…皆母子家庭の子供達なんだ…結構参加者居るんやな?…
私は結構冷めた目でみんなを見ていた…
担当のボランティアさんだろう叔母さんたちが
『レクリエーションを始める前に年長者をこの組のリーダーとして男女一人ずつ選びます!呼ばれた人は手を挙げ立って自己紹介お願いしまぁ~す!』
ドキッとしたのもつかの間…明らかに叔母さんの口からは私の名前が呼ばれた…
緊張した…やめてくれと何度も頭で叫んだ…
自ら話した自己紹介…言った端から記憶に残る訳もなかった…。
しばらくし真っ白になった頭の中は、叔母さん達の考えたレクリエーションがほとんど終わる頃にやっとこさ正常化した…
正気に戻り、ふと女の子のリーダーを見ると…あれ?と思うほど…これが私の思春期の心をくすぐるほど可愛い女の子だった。
それからの時間、私の視線はずっとその子を追いかけていた…
リーダー通し当然その可愛い娘とも話せた…
話しでは昨年父親を交通事故で亡くしたらしい…
でもその娘の話し方や笑顔には悲しみのかけらも感じなかった…
来てよかった!…トランプをしたり、椅子取りゲームをしたり、楽しい一時はあっという間に過ぎて行った。
私は生まれて初めてのX'mas気分を味わっていた…。
『それでは今から合同でキャンドルサービスを行うので体育館に移動します!』
少しその場に打ち解けていた自分は、リーダー気取りでいつの間にかみんなを先導していた…
みんな腕組みししばしの寒さに震えながら歩いた。
長い廊下を抜けたところに体育館はあった…。
私は…ただただびっくりした…
えっ…こんなに…
そこにはその他の部屋から出てきた子供達で溢れかえっており、体育館には100名以上の参加者が居た…。
生まれて初めてのカルチャーショックだった…
こんなに母子家庭の子供達が…
こんな田舎の松山にいるなんて…
中学生の自分には今まで見たことも無い光景がそこにあった…。
キャンドルサービスは静粛に慎ましやかに執り行われた…
体育館の明かりは全て消され…
ひとつの蝋燭の灯が燈され…
その燭を『きよしこの夜』を唄いながら、みんなで隣り合わせにそしてチームのみんなに受け渡していった…
リーダーである私は列の先頭に立ち、10メートル位離れた向かい合わせにあの可愛いリーダーが居た…
私は蝋燭の炎をじっと見つめていた…
口づさむ唄はいつしか『ふるさと』に変わって居た…
うさぎおいしこの山…小鮒釣りしこの川…夢は今もめぐりて…忘れがたき故郷…いかに居ます父母…
唄いながら私はふとあの娘に目をやった…
蝋燭の薄明かりの中にその娘の姿があった…
うっ!…
さっきまで笑顔だった彼女はボロボロと大粒の涙を零し…その涙を拭おうともせず…涙声で一生懸命『ふるさと』を唄っていた…
私も泣いた…体育館に居たボランティアさんからそこに居たみんないつの間にか泣いていた…
一生懸命泣いていた…
そして一生懸命唄っていた…
そこには言葉も何も要らなかった…
みんなひとつになっていた…
悲しみを分かち合う事の大切さを、間違いなくみんな心に刻んでいた。
30年以上経った今でもX'masになるとあの日の涙を思い出す。
