担当者:ふな
1.コーヒーの成分
1-1 ブラックコーヒーの基本成分と特徴
1-1-1 基本成分
a 砂糖やミルクを加えないコーヒー浸出液の大部分は水分であり、エネルギーは4kcal/100gと非常に低カロリー
←コーヒー浸出液:中びきのレギュラーコーヒー10gを150mlの熱湯で浸出したものをもとに示される成分値
b ブラックコーヒー自体は低カロリーであるが、加える砂糖やミルク、クリームなどの種類や量によってエネルギーや糖質、脂質のは変化する
1-1-2 カフェイン
a カフェインは体内でアデノシンの働きに関わることで、一時的に眠気を感じにくくさせる効果がある
b 朝の目覚めや昼食後など自身の体調に合わせて摂取し、夕方以降はデカフェに切り替えるなどの調整が日常で上手く付き合うコツである
←デカフェ:通常のコーヒーよりカフェイン量を大きく減らしたコーヒー
C 妊娠中や授乳中、服薬中の人、あるいは動悸や不眠、胃もたれが出やすい人は、自身の体質や体調に合わせて慎重に考える必要がある
1-1-3 クロロゲン酸類(ポリフェノール)の概要
a コーヒーに含まれるポリフェノールの代表はクロロゲン酸類である
b コーヒーの味の印象や、日常的な飲用時における胃への負担などに関わる成分である
1-1-4 香り成分およびその他の微量成分
a コーヒーの香りは焙煎の過程で糖類やアミノ酸などが加熱されて生まれ、飲む直前に豆を挽くことで最も強く感じられる
b 焙煎中に変化するトリゴネリンという成分は、一部がナイアシンに変化してコーヒーの味わいや成分変化に関わる
←トリゴネリン: コーヒーの生豆に多く含まれるアルカロイドの一種である。焙煎によって一部が分解され、ナイアシン(ビタミンB3)やコーヒー特有の香り成分へと変化するため、コーヒーの風味形成に重要な役割を果たす
←ナイアシン: ビタミンB群に属するビタミンB3のことで、体内のエネルギー代謝を助ける働きをもつ。コーヒーでは、焙煎時にトリゴネリンが分解されることで生成されるため、コーヒーはナイアシンの摂取源の一つとなっている
c コーヒーに含まれるわずかな油脂成分(コーヒーオイル)にはジテルペン類が含まれ、抽出方法によってカップへの残り方が変わる
←ジテルペン類:コーヒーに含まれる脂溶性の生理活性成分の総称であり、主なものとしてカフェストールとカーウェオールが挙げられる。これらの成分はコーヒーオイルに含まれており、健康への影響について多くの研究が行われている
1-2 ポリフェノール:植物由来の抗酸化物質
1-2-1 抗酸化物質:酸化に対抗する物質
a ポリフェノールは抗酸化物質の仲間の一つ
b ビタミンC、ビタミンE、カロテノイド等いろいろな種類があり、7000~8000種存在すると言われているが、全容はわからない
Ex)緑茶の「カテキン」、大豆の「イソフラボン」、赤ワインの赤色「アントシアニン」等
1-2-2 摂取する必要性
a 活性酸素:酸素が変化したもので、不安定で酸化力が強く体内の細胞や組織などを酸化させる →1960年代半ばから病気の発症に活性酸素の関与を無視できなくなる
→体内の抗酸化物質だけでなく食物や飲料から摂る必要性の認識が広がる
b 動脈硬化を防ぐ
←WW2で欧米人の食生活ではコレステロール値が高くなり心筋梗塞を起こしやすいはずが、フランス人はワインを飲む習慣があり亡くなる人が少なかった
→ヒト試験で赤ワインの摂取がLDL(low-density-lipoprotein)という悪玉コレステロールの酸化を遅くすることを実証
1-2-3 含有量と摂取量
a コーヒーは緑茶の約2倍ポリフェノールを含む
←赤ワイン230㎎/100g、コーヒー200㎎/100g、緑茶115㎎/100g(2009年)
b 理想的な1日のポリフェノール摂取量は1000~1500㎎以上が目安
←コーヒーカップ1杯(約140ml)には280㎎のポリフェノールを含む
→コーヒーで摂取するなら1日3杯のコーヒーを飲むことを推奨
1-2-4 クロロゲン酸類(ポリフェノール)の特徴と影響
a コーヒーの苦味・渋味・酸味の印象に深く関わる
b 焙煎が進むほど減る傾向があるため、一般的には浅煎りの方が残りやすい
c コーヒー特有の成分ではなく、ナス、ジャガイモ、リンゴなどの野菜や果物にも日常的に存在している
1-3 カフェイン
←メチルキサンチン類に属する化学物質で苦みを持ち、もともとは植物が昆虫に食べられないようにするために作られてた物質であると考えられている
←メチルキサンチン類:アルカロイドの一種であり、神経系や循環器系に作用する生理活性物質である
←アルカロイド:主に植物に含まれる窒素を含んだ天然有機化合物であり、生体機能に影響を与える生理活性機能を持つ
1-3-1 含有量と摂取量
a レギュラー・インスタントコーヒー60mg/100g、紅茶30mg/100g、煎茶20mg/100gを含む
b 健康な成人が摂取してもよいとされる最大量は1日あたり200~400㎎
←WHO(世界保健機関)等が定めた基準
→コーヒーカップ1杯(140ml)には約82㎎のカフェインを含む
→1日3~4杯あたりを目安にとどめる
c 妊婦・授乳婦は1日200mgまで、3~18歳の小児は3mg/kg(体重)
←EFSA(欧州食品安全機関)の基準
1-3-2 脳への作用メカニズム
a カフェイン摂取後約30分で吸収され全身へいきわたり、脳内へ到達
b カフェインは間接的に脳を興奮・覚醒させる
→アデノシン:アデノシン受容体(Ad2-R)と結合して興奮性神経伝達物質の抑制を抑える物質
→カフェインはアデノシンに拮抗して働く
c 利尿作用が生じる
∵アデノシン受容体のサブタイプ(Ad1-R)の働きも阻害するため
←Ad1-R:腎臓への血流を減らし、腎尿細管再吸収を促進する
1-3-3 認知機能と運動機能
a 認知機能
→反応時間の短縮、注意力・集中力の向上
→計算能力の向上は摂取後約30分後くらいから現れ1時間後ピーク
←カフェインの継続的な摂取量が多いほど反応時間が短く、言語記憶などの成績が良いとされる
b 運動機能
→持久運動のパフォーマンス向上や疲労の軽減効果 ←イギリスの研究で1500m走3回の平均タイムを比較するとコーヒー(カフェインあり)を飲んだ時の方がカフェインレスコーヒーを飲んだ場合よりも約3秒早くなるという結果
c 睡眠へのマイナス面
→就寝前に摂取すると入眠時間が長くなり、眠りが浅くなる →影響を減らすには、夕食以降はカフェインレスコーヒーや緑茶の二番煎じ(一番煎じに90%以上出るため)が推奨される
1-3-4 認知症および神経変性疾患への期待
a 前頭前野を活性化させることで、認知症の周辺症状への効果が期待されている
b アルツハイマー病やパーキンソン病の発症リスクが低下するという報告や示唆がある
1-3-5 嗜好性と依存性・離脱症状
a 依存性の強さ
←アルコールの約1/50、ニコチンの約1/10と非常に弱い(脳内報酬系・依存の回路には関連しない)
b 離脱症状
←突然の摂取中止で頭痛や眠気などが出ることがあるが、7日以内に自然消失するか約100mgの摂取ですぐに消える
←乱用薬物のように無制限に摂取を欲することはなく、気分を高める効果とリラックス効果の両面を持つ
1-3-6 カフェインの急性効果と日常での適切な飲み方
a カフェインの急性効果として、飲用後に一時的な血糖値の上昇やインスリン感受性の低下が見られる現象があるが、実生活の通常量であれば問題はない
b 日常生活においては、コーヒーを単独で飲むよりも、朝食などの食べ物と一緒に摂取することが推奨される
∵GIの低い食べ物を一緒に摂ることで、カフェインによる血糖上昇の急性効果を和らげることができるため
←GI(グリセミック・インデックス):食事摂取後の血糖の反応を数値化したもので、値が低いほど食後の血糖上昇が緩やかなことを示す
2.コーヒーとがん
2-1 日本人のがんの現状と要因
2-1-1 日本のがん罹患数は年々増加しているが、その最も大きな理由は高齢化である
2-1-2 がんの発症には遺伝要因よりも環境要因が強く関与している
a 全がんの原因の約30%を占める喫煙と、ピロリ菌や肝炎ウイルスなどの感染症が、発症リスクを確実に上昇させる2大原因である
b 肥満単独によるがん発症への影響はさほど大きくない
∵東アジアの研究ではBMI(body mass index)25~27.5ではがん死亡リスクが上がらず、27.5以上で少し上がる程度であることがわかる(2011年)
2-2 食べ物およびコーヒーががんに与える影響
2-2-1 食べ物のがんへの影響は、連続的な摂取量の中で危険域を示す方法により判断される
2-2-2 コーヒーはがん全体のリスクを少なくとも上げることはない
a コーヒーががんの原因物質であると指摘されたことがあったが、信頼性の高い研究データを統合して解析した結果、かつて指摘された膵臓がんのリスクをむしろ下げることが明らかになっている
b 厚生労働省研究班において、野菜や果物は食道がんを、コーヒーは肝臓がんのリスクをほぼ確実下げると評価
2-3 コーヒーによる肝臓がん予防のメカニズムと効果
2-3-1 コーヒーは摂取量が多くなるほど肝臓がんの発症率が低くなる現象が認められている
←負の量反応関係:特定の物質の摂取量が多くなるほど、病気の発症率が低くなる傾向のこと
2-3-2 コーヒー成分によるインスリン抵抗性の改善作用が、肝臓がんのリスク低減に役立っている可能性がある
←インスリン抵抗性:内臓脂肪の増加などによりインスリンの働きが弱まる状態
∵インスリン抵抗性になると細胞増殖や腫瘍の増殖が進むが、コーヒーはこれに関係する2型糖尿病のリスクを下げる作用があるため
2-3-3 インスリン抵抗性が関係すると言われる大腸がんや子宮体がんについても、リスク低減効果が確認されている
3.コーヒーと糖尿病
3-1 日本人の糖尿病の現状
3-1-1 成人発症のほとんどを占める2型糖尿病の該当者は、全国に約1800万人存在し、減少傾向にある
←令和6年10月~11月に実施した「国民健康・栄養調査」によるもの
a 強く2型糖尿病を疑われる人(約1100万人)と可能性を否定できない人(約700万人)
←2型糖尿病:インスリンの働きが悪くなることにより、相対的にインスリンが不足するタイプの糖尿病
3-1-2 糖尿病は血糖値を下げるホルモンであるインスリンの作用や、血液検査の数値をもとに判定が行われる
3-2 コーヒーによる2型糖尿病の予防効果
3-2-1 世界各国の多くの研究結果から、コーヒーを飲む習慣は2型糖尿病と耐糖能障害を予防することが確実視
a Van Damらはコーヒーを1日4~6杯飲む人は,1日2杯以下の人に比べて2型糖尿病発症のリスクが28%下がると報告
b Huxleyらによる18本のコホート研究をメタ解析した論文では,コーヒーを1日3~4杯飲む人は,1日2杯以下の人に比べて2型糖尿病発症のリスクが24%下がる
←コホート研究:共通の条件や属性をもつユーザーをグループ化し、そのグループごとに時間の経過による行動の変化を分析する手法
3-2-2 カフェインの入っていないデカフェ・コーヒーでも、カフェイン入りと同様に2型糖尿病の発症リスクを下げる効果が認められている
←コーヒーに豊富に含まれるクロロゲン酸類などのポリフェノール(抗酸化物質)が働いている可能性がある
3-2-3 欧米人と比較してコーヒーの飲用量が少ない日本人を対象とした複数の研究でも、1日1〜2杯の飲用からリスクが下がる可能性が示唆されている
←女性の場合はコーヒーを1日1杯以上飲む、飲まない/ほとんど飲まない、月1杯~週6杯の順で2型糖尿病の発症が少ない傾向にあった
4.コーヒーによる肥満予防
4-1 肥満・内臓脂肪型肥満の定義と捉え方
a 肥満:医学的に脂肪組織が過剰に増えた状態を指し、日本肥満学会ではBMI25以上を基準としている ∵日本人は軽度の肥満でも糖尿病などの病気になりやすいことが知られているため
←米国ではBMIが30以上で肥満とされる
b 米国では肥満は病気とされ、減量が必要という画一的な治療方針をとるが、日本では「肥満症」と「肥満」の語を用いて医学的観点から減量の必要性を個別に判断する
c 脂肪の蓄積において、皮下脂肪よりも腹腔内に脂肪が貯まるタイプは生活習慣病との関連性が非常に強い ←内臓脂肪型肥満:腹腔内に脂肪が貯まり、生活習慣病との関連性が強い肥満のタイプ
4-2 脂肪組織の働きとサイトカイン
a 脂肪組織は身体の機能を調節する生理活性物質(アディポサイトカイン)を活発に作る役割を持つ
←1990年代まで単なるエネルギーの備蓄組織だと考えられてきた
b アディポサイトカインには生体に攻撃的に働く悪玉と、多様な病気に防御的に働く善玉が存在する
←アディポネクチン:インスリンの働きを助けて糖尿病を防ぎ、細胞を修復する多様な病気に防御的な善玉サイトカイン
c 内臓脂肪が蓄積した状態になると、善玉であるアディポネクチンの血中濃度が低下する
←脂肪組織自体の機能が低下することが、メタボリックシンドロームをはじめとする様々な病気につながるため
4-3 メタボリックシンドロームの診断と治療
a メタボリックシンドローム:一個人が内臓脂肪型肥満に加えて、脂質異常、高血圧、高血糖のうちいずれか2つ以上をあわせ持った状態のことである
b 特定健診や特定保健指導で腹囲を測定するのは、内臓脂肪量を推察するための簡便な代理指標として役立つからである
c メタボリックシンドロームの治療方針は、単に個々の数値を下げるだけでなく、原因である内臓脂肪を減らすことを基本とする
→1〜2kg程度の減量や2〜3cm程度の腹囲減少によって、脂肪細胞の機能はかなり回復する
4-4 コーヒーが肥満とメタボリックシンドロームに与える影響
4-4-1 コーヒーに含まれるカフェインには体脂肪を分解・燃焼させ熱産生を増加させる効果
a 食事を摂るとエネルギーの約10%が熱産生に使われる
b 3~4杯程度のカフェイン入りコーヒーでは9%,カフェインレスコーヒーでは6%程度の熱産生が増加すると報告
4-4-2 実生活上での体重減量効果は限定的
a 医療従事者を対象とした米国のコホート研究(約6万人)によると, BMIが30以上の女性での体重の変化(12年間)には効果が見られる
←カフェイン摂取増加群では約1.9kgの増加にとどまり、カフェイン摂取減少群では約3.8kg増加しており、その差は小さいが統計学的には有意
b 男性やBMIが標準的な女性には認められず
4-4-3 習慣的なコーヒーの摂取は、糖尿病リスクも含めメタボリックシンドロームを改善する効果がある
a 日本人男性を対象とした疫学調査において、コーヒー摂取量が多い人ほどアディポネクチンの血中濃度が高いことが報告
b カフェイン以外の成分であるコーヒーポリフェノールなども、メタボリックシンドロームの改善に寄与している可能性が示唆されている
∵マウスを使った研究において、コーヒー摂取群では高脂肪食のみの群と比べ、引き金となる炎症性サイトカインが減少することが示された
←炎症性サイトカイン:インスリンの働きを阻害するなど、メタボリックシンドロームの引き金として生体に攻撃的に働く悪玉物質
5.水分補給とコーヒー
5-1 体液の区分と組成
5-1-1 成人の体重の約60%は水分(体液)
a 2/3が細胞内液、1/3が細胞外液に区分される
←細胞内液:体液の2/3を占める細胞内の水分。カリウムイオンの濃度が高い
←細胞外液:体液の1/3を占める血漿や間質液。ナトリウムイオンの濃度が高い
5-1-2 生命を維持するために、細胞内液の状態を一定に保っている
←細胞は積極的にナトリウムを吐き出してカリウムを組み入れて調整
5-2 体液の役割と水分バランス
5-2-1体液には細胞の内外のイオン環境を整える、物質や熱を運搬する(血液循環)、体温調節を行う(比熱が大きい水の特性や汗の利用)の3つの主な役割
5-2-2 毎日最低約1100mLの水分を必ず補填する必要がある
←人間は水分を全く摂取しなければ数日で重症の状態に陥る
5-2-3 体液調節と脱水のメカニズム
a 体の水分は、水とナトリウムのバランスをみる浸透圧センサーと、水分の全体量をみる容量センサーの2つでモニターされている
b 喉が渇くのは細胞外のナトリウム濃度が上がって浸透圧が上昇するため
c 喉の渇きが止まるのは口腔咽頭反射によるもの
←口腔咽頭反射:飲んだ水が小腸から吸収されて浸透圧が下がる前に、喉の渇きを癒やすことで水の飲み過ぎ(水中毒)を回避する反射
d 脱水状態で体温が上昇すると熱中症になりやすい
∵体液量減少による皮膚血流量が減少および浸透圧上昇による体温調節中枢の機能の抑制が発汗や皮膚血流量の増加を抑えてしまうため
5-4 水分補給におけるコーヒーの役割
a 日本人の1日当たり飲料摂取量(水道水やアルコールを除く)の平均は1.11L
←コーヒーは緑茶に次ぐ第2位(平均213mL/日)の位置づけにある
b コーヒーの98%以上は水分であり、脱水時の水分摂取という点で重要な摂取源になっている
c カフェインには弱い利尿作用があるが、コーヒーの水分補給効果は水の摂取と同等
→コーヒー摂取も水摂取も総体水分量に変化を及ぼさないという介入研究のデータがあり、脱水時などの水分補給としてコーヒーを飲むことは脱水予防になる