2024年 1月25日、千葉県成田市の神社をいくつか巡ってきました。
今回は、その1/3回目。標記神社のご紹介です。
成田総鎮守
埴生神社 (はぶ)
成田山新勝寺の西参道沿いに西向きで鎮座します。
◇鎮座地:千葉県成田市郷部994
◇最寄駅1:JR成田線 成田駅~1.2km
◇最寄駅2:京成線 京成成田駅~1.3km
◇御祭神:埴山姫命(はにやまひめ)
◇御朱印:あり
京成成田駅を下車し、成田山新勝寺の表参道を進みます。途中「西参道 三の宮通り」に折れ、道なりで到着です。
【社頭】
写真左手の道路は成田山新勝寺の西参道。この街道、かつては杉並木だったそうです。しかし、道路拡張のため伐採されてしまいました。
境内は、植栽刈込をはじめ、きちんと整えられています。
◆石の大鳥居
鳥居の種類を絞り込みます。
①笠木の形状
→神明系
②「①」+ 貫が柱から出ている
→鹿島鳥居・春日鳥居・宗忠鳥居
③「②」+ 額束がある
→春日鳥居・宗忠鳥居
④「② ③」+ 柱に角度がある
→宗忠鳥居 が確定
◆手水舎
神社に掲げられる「日の丸」からは、日本神話や八百万の神々への敬意を感じます。
【社殿】
◆拝殿
土師部一族の先祖を祀ったとされる古墳の跡に社殿が建立されています。by当社パンフ
神額に「三宮」と!?
しかし
下総国に三宮はありません
これは
どういうことでしょう
【参考】
首都圏「二宮&三宮の鎮座状況」
(東京・埼玉・神奈川・千葉)
武蔵国=六宮まで存在
相模国=四宮まで存在
上総国=三宮まで存在
下総国=二宮まで存在
安房国=二宮まで存在
調べたところ、
旧・埴生郡の域内における三宮
という意味でした。
その昔、この地域は利根川より物資が運び込まれていました。利根川に近い、栄町矢口に「一宮」、松崎に「二宮」、郷部に「三宮(当社)」が祀られました。
この3社は、利根川から成田山新勝寺へと続く道筋に鎮座しています。
◆賽銭箱の神紋
初めて見る紋でした。調べたところ
「丸に尻合わせ三蔦」
という植物紋でした。
丸に尻合わせ三蔦
(まるに しりあせ みつつた)
江戸時代の庶民は、樹木などに絡まって繁殖繁栄する蔦の性質を愛で、家紋として使用しました。八代将軍 吉宗も蔦紋を替紋として使用したそうです。
by 家紋ドットネット
由緒
土師部の一族が氏神を祀った
当地では、約1500年前に土師部(はじべ)の一族が集落を構え、土師器を作っていました。彼らが一族の氏神=埴山姫命を祀ったのが始まりと伝えられています。
by 当社パンフ
土師器(はじき)
古墳時代から奈良・平安時代まで生産された素焼きの土器。埴輪も土師器の一種。
多く作られたのは甕などの貯蔵具で、9世紀中頃までは坏、皿、椀 なども生産されました。また、炊飯具=甑(こしき)もそうです。
土師器は、日常食器のほか、祭祀具・副葬品としても使われ、祭祀遺跡・古墳から出土しています。by ウイキ
(参考)壺型土器
柏原市・藤井寺市 船橋遺跡出土
古墳時代・4世紀
土製 photo by文化遺産オンライン
埴生の語源
今は、「はぶ」と読みます。
しかし、元は「はにう」だったのでは、と想像できます。例えば「埴輪」と書いて「はにわ」です。
古代語:はに
「はに」は、土器や陶器の元になる粘土を示す語です
このことから
埴(=粘土)が採れる地=埴生(はにう)
→埴輪や土器の材料
ということです。
例えば、同様にして
丹(=辰砂)が採れる地=丹生(にう)
→神社の赤色塗料や鍍金の材料
これらの産地が地名だけでなく、当社や丹生神社といった神社名にも繋がっていった、ということなのでしょう。
拝殿に向かって左手から、本殿へと向かうことができます。
拝殿の右手は、中庭、昇殿者待合室、社務所となっていました。
左サイドは、美しい箒目がつけられた玉砂利のエリアです。
職能集団のこと
当社の周辺地域は
麻生郷=麻を生産する一族の集落
玉作郷=鏡や玉を作る一族の集落
羽取郷=機織りをする一族の集落
※羽鳥(はとり)≒服部(はっとり)
などの職能集団が郷を形成しました。
そして、各郷で氏神を祀っていたと考えられています。
麻生郷(現・印旛郡栄町矢口)
→一ノ宮 埴生神社
玉作郷(現・成田市松崎)
→二ノ宮 埴生神社
山方郷(現・成田市郷部)
→三ノ宮 埴生神社=当社
◆本殿
当社パンフによれば、本殿は大社造りとのこと。
しかし、本殿は「平入り」で拝殿から本殿に向って水平な渡廊が設えてありました。
【参考・大社造】
階段が本殿を突き刺す
なんて
エロティックな造形
なのでしょう
これこそが、大社造です!
平入でなく妻入であることが重要。
常陸国 出雲大社(筆者 2017年参拝時に撮影)
出雲大社は黄泉国を司る神を奉斎します。「陰、極まって陽と転ず」=死は生の始まり。
つまり、大社造は「生を予感させる」ことを体現した造形。と、そんな風に思いました。
◆再び、当社本殿
御祭神
埴山姫之命
『古事記』では、「埴安」ハニヤス
『日本書紀』では「埴山」ハニヤマ
土神、土壌神、肥料神、農業神。その他、陶芸、鎮火、土木工事、厠(かわや=トイレ)等の神としても知られます。
◇古事記には
イザナミの大便からハニヤスが化生した
と記されます。
大便
=黄色の粘土状 + 山のような形状
=埴 + 山
=ハニヤマ
ということなのかも…。
◇延喜式には
「ミツハノメとともに火神の火気を鎮めよ」と記す祝詞があります。
誕生譚と火鎮め祝詞以外、埴山姫の名は記紀に出てこないようです。
◆女神仕様
千木:内削ぎ(=水平に削る)
鰹木:偶数
すなわち、女神仕様
屋根装飾と祭神(女神)が整合します。
◆ご神木
【境内社】
◆浅間神社
御祭神:木花開耶姫命
本殿裏手の小高い場所に鎮座
◆境内社 4社
大鳥居を潜った先、右手のエリアに4社殿を集めています。
社号が不明でしたので社務所で取材し、明らかにしました。
◆八雲神社
御祭神:素戔嗚尊
◆子安神社
御祭神:木花開耶姫命
◆祖霊社
◆不明社
不明にもかかわらず、ていねいに祀られていて素晴らしいです。
◆授与所
御朱印はこちらで。
【御朱印】
初穂料:500円
「正月限定版の中から選ぶように」とのこと。もっともシンプルなものにしました。
【参拝ルート】
2024年 1月25日
START=9:22京成線 京成成田駅着~1.3km~①埴生神社 ~180m~郷部南バス停10:38→成田市コミュニティバス→10:56宮下バス停~150m~②豊住 熊野神社~1.1km~③北羽鳥 香取神社~2.3km~④竜台 六所神社~400m~竜台車庫バス停14:58→成田市コミュニティバス→15:26京成成田駅=GOAL
※この日、成田山で行事があったため①→②の路線が運休。この区間はTAXI移動しました。
【編集後記】
◆祭神の出自など
『古事記』では、天地開闢に続いてイザナギとイザナミによる国生み・神生みが語られます。当社祭神である埴山姫命はこの流れの中で生まれます。
イザナミは、さまざまな神を生んだあと、火の神=カグツチを出産します。その際、女陰部(ホト)に大火傷を負い、この世を去ります。
死の間際、苦しみながら嘔吐、失禁、脱糞。そこから神が生まれます。
◇吐瀉物から金属神
→カナヤマヒコ・カナヤマヒメ
◇小便から水神と植物神(=木)
→ミツハノメ&ワクムスビ
◇大便から土神
→ハニヤマヒコ・ハニヤマヒメ
これは「木火土火水(もっかどごんすい)」の五大元素に対応する神が生まれた、とも言えるでしょう。中国・五行説との関連が指摘されています。(了)
【参考資料】
『日本の神々』松前健(中公文庫)
『日本の神様読み解き事典』川口謙二[編著](柏書房)
『日本の神々』鎌田東二[監修](東京美術)
『神話のおへそ「日本書紀」編』~神社検定テキスト
『ウイキペディア』
以上