《香取神宮の歩き方~祭典》
『新嘗祭』
(にいなめさい、にいなめのまつり、しんじょうさい)
【一般的な理解】
新嘗祭は、天皇がその年に収穫された新穀を天神地祇に供えて感謝の奉告を行い、供え物を神からの賜りものとして、自らも食する儀式です。毎年11月23日に宮中で執り行われます。
◎この日は、全国各地の神社でも新嘗祭が斎行され、新穀を天神地祇に供え、感謝奉告の式典が執り行われました。
神社で斎行される新嘗祭は、『農業神事』といった印象があります。
春:五穀豊穣を祈念=祈年祭
秋:新穀収穫を感謝=新嘗祭
と、このように両者を対の形で語ることが多いのがその証と言えるでしょう。
しかし・・・、
稲の収穫祭である以上に、《皇祖神と天皇のための祭》、とする見方が本来的です。
それでは、香取神宮『新嘗祭』をご紹介していきます。
【斎庭にて】
◆祓所
玉砂利を整え、忌竹と注連縄で結界。清浄な空間が出来上がっています。
榊のたもとに案が設置され、神職の到着を待ちます。
(注) 案は、修祓終了後に撮影しました。
◆宮司らが社務所を出発
御神木を回り込むところ。次に、祈祷殿の前を右折します。左手に楼門、右手に拝殿を眺めつつ、祓所に向かいます。
◆香取神宮楽部
この隊列、先頭集団は雅楽隊です。祓戸に向かうのは、篳篥、笙、龍笛の奏者だけです。
◆修祓
神道では、祭典において神さまをお招きする前に心身の罪・穢を祓います。このお祓いを「修祓」といいます。
◆祓詞の奏上
◆祓の終了
神職のほか、献茶の儀、献花の儀に参列する方々も祓を受けました。
斎庭で修祓を終えると、拝殿にていくつかの行事が執り行われます。
太陽の光を受けて成長した稲穂には、天照大神(=皇祖神・太陽神)の霊威がこもっていると考えられています。
【神職を待つ拝殿】
①真榊
五色絹(=緑・黄・赤・白・青)の幟の先端に榊を立て、三種の神器を掛けます。
向かって左側に剣、右側に鏡と勾玉を掛けたものを立てます。
②霊獣
剣につけられた「四神霊獣」の錦旗が掲げられています。写真は、朱雀と青龍。
③雅楽奏者
欄干:向って左側
新嘗祭における正式な形は笙・篳篥・龍笛・箏・釣太鼓・鞨鼓とのことです。香取神宮では、どのような構成にしているのか、不明です。
④巫女
欄干:向かって右側
舞を奉納すべく、4名の巫女が待機します。
【拝殿内で各種行事を斎行】
◆拝殿に入る神職
◆儀式
拝殿から下りてきて、階(きざはし)の手前で何らかの儀式。
燕尾服&白手袋の男性は、氏子総代だったと思います。勅使ではありません。
新嘗祭では、巫女による神楽が奉納されます。
【悠久の舞】
明治以降に製作された神楽の1つで、神社祭祀に特化した創作神楽です。
◆巫女の装束~印象
かなり落ち着きのある色合いの装束です。
例えば、春・秋の「護国神社・例祭」では、「浦安の舞」を見たことがあります。装束は、華やかなそれでした。
◆「悠久の舞」由緒
皇紀二千六百年奉祝のために舞われる奉祝舞楽として作られました。
歌詞は、元寇襲来の頃に宏覚禅師が詠んだ和歌。これに多 忠朝が作曲&作舞しました。
当初は男舞でしたが、東京オリンピック開催(1964年)に併せて女舞の神楽に改作されました。
◆巫女装束の詳細
天冠を被り、装束の上衣=小忌衣(青摺の模様が入り、左肩より赤紐を垂らす)。袴=単・濃色の差袴。採物は菊花。
注連縄と規制線によって拝殿正面には近づけません。
写真は、授与所脇から北参道に出る通路から望遠撮影しました。
【新嘗祭と鎮魂祭】
皇室神道において、両者は不可分の祭事です。
◆鎮魂祭
新嘗祭の前夜、宮中では天皇の鎮魂祭が行われます。
祭儀の中心は2つ。目的は、天皇の霊力アップです。
①みたましづめ
②みたまふり
→①は、遊離しようとする天皇の霊魂を、身体の中府に鎮める呪術的儀礼。
→②は、中府に鎮めた天皇の霊魂を振起させ、その霊力を再生し、強める呪術的儀礼。
◆新嘗祭
新嘗祭が挙行されるのは、旧暦11月の2回目の卯の日・亥の刻です。
卯の日は、陰陽五行思想に従うと《再生・更新》を意味する日です。
◎霊性更新
・亥刻(=午後10時)
太陽(=日神)がもっとも衰える時刻に忌み籠って夕御饌を食す。
→日神の霊威を身に体し、子刻に一旦退出。
・寅刻(午前4時)
再び神嘉殿に入り朝御饌を食す。
→復活した太陽(=日神)と共に天皇の霊性を更新し、若々しい日の御子となる。
以上が、本来の『新嘗祭』です。
鎮魂祭によって、天皇の霊力を最高度に高めます。
霊力MAXとなった天皇が親祭するのが『新嘗祭』です。
この日、各地の神社にて行われる新嘗祭がたんなる収穫祭であることが浮き彫りになります。
かくして、新嘗祭と日神の関係性を学習した以上、日神社も参拝しなければ、との気持ちが生じるのは必然でした。
【参拝・日神社】
◆参道
『新嘗祭』当日の日神社は、いつもより聖性が高いような気がしました。
日神社を出て、 旧参道を下っていく予定でした。
ところが、香取神宮・分飯司(ぶんがいじ)家の末裔がお住まいになる邸宅前を通りかかったところ、ご当主に遭遇しました。車が渋滞していたので様子を見に出てきた、とのことでした。
※分飯司家
香取神宮・本殿最奥、《内陣の鍵》を保管した禰宜の家系。
【もう1つの日神社】
ご当主に挨拶の上、邸内の「月神社」に参拝したい旨を申し入れたところ、直々に案内してもらえる幸運に恵まれました。
さらに、邸内にお招きいただき、数々のお宝を見せてもらいました。
◆鎮座地へ
お住まいの裏庭に小高くなっている場所があります。神社は、その頂上に祀られています。
頂上には、3つの社殿が並びます。
◆日神社が祀られていた
ご当主のお話では、「(こちら、月神社と言われていますが)実は、日天さまもお祀りしております。」と、社殿の扉を開けてくれました。なるほど、中に御幣が2本入っていました。
写真は3社が並ぶうちの右社殿。
◆寄せ宮と祖霊社
画面右(=中央)の社殿もまた、日神と月神を合祀されている、とのことでした。
左の小祠は、分飯司家の祖霊社。
日神社・月神社にお参りし、お住まいに移動しました。
◆神棚
この中に、内陣の扉を開ける鍵(の拓本)を祀っています。
ほかにも、重要文化財を含むいくつかのお宝を御披露いただきました。
【御朱印】
初穂料は500円。
通常版の御朱印をいただきました。
【参拝ルート】
2021年11月23日
《香取神宮 新嘗祭》
START=JR成田駅→成田線→佐原駅~佐原駅・2番バス乗り場→(市)循環バス→香取神宮バス停~赤鳥居(二之鳥居)~表参道~総門~手水舎~楼門~拝殿~ 『新嘗祭』 ~楼門~旧参道~ 日神社 ~下井坂~赤鳥居~香取神宮バス停→循環バス→JR佐原駅=GOAL
【編集後記】
◆紅葉
手水舎付近です。
◆文飯司家のお宝
ご当主と話が弾み、邸内に招かれました。
県主催の『香取神宮展』に出品要請された屏風絵です。と、奥から出してこられたのがこちら。
ご当主は、和弓をたしなまれていて、以前は「オビシャ」を行なっていたそうです。今は、中断しているとのことでした。
◆神事・祭事の日は要注意
香取神宮は人気が高く、土・日・祝日は多くの来訪者で賑わいます。
拝殿前などは、参拝者で長蛇の列ができます。
そんな中、とくに注意したいのが《休日と香取神宮祭事のバッティング》です。
年間多数の行事があり、それが休日と重なる場合があります。
この場合、神事・祭典が斎行されている時間帯は、拝殿前まで進むことができません。
楼門の先に賽銭箱が仮設され、遥拝を指示されます。当たり前ですが、それが神社です。
知らずに来訪した方々は、拝殿まで行けずに戸惑うことになります。 (了)