王子稲荷神社
当社は、地域の守り神であるだけでなく、関八州三十三か国に存在する稲荷神社の総元締めと呼ばれ、江戸っ子たちの人気を集めた神社でした。
また、関東中の狐が初詣のため当社に集まった、という伝承があります。
◇鎮座地:東京都北区王子岸町1-12
◇最寄り駅:王子駅~500m
JR京浜東北線、東京メトロ南北線、都電荒川線
◇御祭神:宇迦之御魂神、宇気母智之神、和久産巣日神
◇御朱印:あり
当社は、時間や場所によって異なる表情を見ることができます。
台地の端に立地しているため、社地に高低差があり、3つのセグメントに分けられます。
①世俗的な区域
→最も低い場所:神門の内側が幼稚園の運動場です。
②一般的神社な区域
→石段をあがった場所:フツーの神社のたたずまい。
③ディープな区域
→高い場所:「お穴様」や「御石様」などがあるスピ地域。
①世俗的な区域
a.【表参道】(東参道)
社有地の一部において、幼稚園を経営しています。それに関連して、石段下の境内地を園児の運動場に充てています。
したがって、神門は、園児の安全確保のため厳重に施錠されています。
つまり、神聖・静寂であるべき「斎庭(ゆにわ)」が「校庭」に化けています。
◆手水舎遺構
神門をくぐって右手。
右奥には、壁をピンク色に塗装した園舎。そして、こちらは水盤が撤去されています。
また、柱の足元に幼児用の三輪車まで見えます・・・。痛々しいです。 ※2017撮影
表参道が閉鎖されているため、脇参道にまわります!
b.【脇参道】(南参道)
◆一見、普通の社頭です・・・
神社として当たり前の景色です。しかし、一歩入ると・・・
◆神楽殿とママチャリ
神楽殿から内拝殿のところに数台、右手の宝物館側にさらに多くのママチャリが並びます。
◎当社への参拝について
◇表参道(東):土日のみ通行可。平日は幼稚園の安全管理上、閉鎖されています。
◇脇参道(南):常に開いています。
要するに、平日は2つの参道とも世俗的ということ。
東参道=幼稚園校庭、南参道=駐輪場もどき
といったありさまです。
とはいえ、
拝殿付近&その奥は静寂ですし、清澄な場所もあり、スピ的に「濃い」場所もあります。そこが当社のおもしろいところです。
②一般的神社な区域
◆一之鳥居と石段
神門の外から望遠撮影。土日はこの石段から斎庭へ進むことができます。
◆二之鳥居
外拝殿から2mほどの至近距離にあります。アルミフェンスは施錠されています。
◆現役手水舎
水盤は塞がれ、アルコール液のボトルが置かれていました。
参拝者を清浄にするより消毒したい、ということです。
しかし、
《ウイルスや雑菌》は消毒液で消すことができても、
《ケガレ》は手水でなければ落すことができません。
水盤の蓋については、やむをえず納得しておきます。
【社殿】
◆拝殿
当社では、内拝殿と外拝殿があります。こちらは、外拝殿。
◆撤去された鈴緒
コロナ以降、本坪鈴は残されていても鈴緒が外されていました。
◆稲荷神社の総元締め
当社は、自他ともに認める「関東稲荷惣司」神社でした。
これは、関東各地の稲荷神社分社を認可し、神階を与える権限がありました。
この称号、実は似たようなものがいくつかありました。
→妻恋神社=稲荷總司、鉄砲洲稲荷=関東総司稲荷神社、早稲田水稲荷=関東稲荷惣領
などです。
江戸時代、「関東稲荷總司」の称号をめぐって、当社は妻恋神社から称号の使用差し止め訴訟を起こされています。幕府・寺社奉行は、妻恋神社の訴えを認める判決を下しました。
◆内拝殿
横に付けられた石段の右手が内拝殿です。外拝殿とは地続きです。
◆本殿
左から、内拝殿、幣殿、本殿
◆社務所・授与所
◆境内の奉納幟
京都・伏見稲荷大社に祭神が降臨したのが和銅4年(711年)の2月初午と伝わります。それにあやかって、各地の稲荷神社ではこの日に神事や初午祭を執り行います。
「初午」と書かれた幟は境内のあちらこちらで見ることができます。
◆境内社エリアへ
この鳥居の先に「清澄な区域」と「スピな区域」が展開されます。
【清澄な区域】
◆本宮(もとみや)
当社において、筆者が最も好きな場所。
この区域に入らずに、帰ってしまう人もいるためイイ感じです。
◆崖下
本宮への参道の左サイドは、石垣で補強された崖になっています。
参道から眺めると、このあたりも良い感じです。
③ディープな区域
本宮の右サイドに「千本鳥居」があります。
ここが《スピ的世界》への入り口です。
◆濃厚な世界へ
建ち並ぶ鳥居が、参拝者を独特な世界へと誘うかのようです。
こちらを抜けると空気がやや重くなり、湿気が増します。
◆寄せ宮
左:亀山稲荷社
中:嬉野森稲荷社
右:北村稲荷社
この日は、晴天でした。しかし、写真からも湿気が伝わるかと思います。
◆御石様
こちらも強めの湿気を感じました。
◆ご神体
どうやら「おもかる石」のようです。背後は、参拝者による奉納狐が並びます。
◆お穴さま
当社で最も高い場所に鎮座します。
①鳥居をくぐる(=西に向かう)
②石段を上る(=北に向かう)
③石段を上る(=南に向かう)
④石段を上る(=西に向かう)
⑤狐塚
石段は、つづら折りに造られています。
④を半分ほど上がったところで、急に《寒気に襲われ》ました。
筆者はビビリなので、すぐさま引き返しました。
(この種の雰囲気は、品川神社・境内社「阿那稲荷神社」以来のことでした。)
◆お穴さま・社殿
覆い屋の内部は石祠と狐穴。撮影しましたが、写真掲載は控えます。
代わりに、④から下界を写した写真を掲載します。
以上、多様な表情を見せるワンダー・ランドな当社でした。
①世俗的区域
②一般的神社な区域
③ディープな区域
これらすべてを含めて、王子稲荷神社です。
【閑話休題】
広重を再現する
◆『名所江戸百景』より
「王子稲荷の社』 木版・紙
◆王子稲荷の社(筆者撮影)
【ご朱印】
初穂料500円
→「千円札でお納めください」との掲示があります。よって、おつりが出ないようにとの気遣いは不要です。
【参拝ルート】
2021年10月 8日
《王子・飛鳥山を歩く》
START=東京メトロ南北線・王子駅~350m~①装束稲荷神社~450m~ ②王子稲荷神社 ~450m~音無親水公園~300m飛鳥山公園入口~300m~渋沢史料館&大河ドラマ館~300m~七社神社・一之鳥居~100m~③七社神社~650m~東京メトロ・王子駅=GOAL
【編集後記】
◆二之鳥居から下界を見下ろす
当社参拝を日曜日にして、神門から入りたい!
と、当初はそう思いました。しかし、考えてみれば、毎日のように何十名もの子どもが神門内側で遊ぶ「斎庭」に、厳かさなど望むべくもありません。
◆稲荷番付
江戸時代、大相撲番付のパロディが流行りました。
例えば、お祭や橋など。各種番付が百花繚乱でした。その中に、稲荷番付があります。
ここでは、「番付」から運営サイドと力士(=関脇まで)をご紹介します。当社も登場します。
◇行事衆:妻恋稲荷(文京区湯島)ほか4社
◇世話人:正木稲荷(江東区常磐)ほか1社
◇勧進元:王子稲荷(北区王子)
◇東大関:三囲神社(墨田区向島)
◇西大関:鉄砲洲稲荷(中央区湊)
◇東関脇:烏森稲荷(港区新橋)
◇西関脇:真先稲荷(荒川区南千住)
by 千代田区教育委員会『千代田の稲荷』(天保元年ヴァージョン)
とまあ、現代の『魅力ある都道府県ランキング』みたいなもので、基準は曖昧です。
◆最後に・・・
神門→一之鳥居→石段→二之鳥居→手水舎
と、オーソドックスな参拝をお望みでしたら、幼稚園の休園日に当たる《土日祝》がオススメです。
(了)