スイカが爆発した。といってもわたしの話ではなく、ラジオから流れてきた顔も知らないリスナーさんの体験談だ。仏壇脇においてあったスイカを爆発させてしまうなんて、今年、スイカを食べなかった者としては恨めしい。もったいないなあと思いながら、ああ、夏が終わるんだなと実感する。

そして、その代わりに山形の郷土料理である芋煮の話で盛り上がる。河原にグループで集まって芋煮会を楽しむのが秋の風物詩でもある。芋煮っていうのは、山形県内でも、土地や地域によって味付けや材料が違う。内陸の牛肉に醤油味に対して海側の庄内地方は豚肉に味噌味なのだ。里芋・牛肉・こんにゃく・ねぎのほかに、ごぼう、豆腐・大根、きのこ、白菜、油揚げ、麩などをいれる家庭もある。  

我が家は、二種類以上のきのこをいれる。夫が芋煮のはなしをするときは、「母ちゃんの作る芋煮にはきのこがたくさん入っていた」と必ず言う。種類が違うものが入っていたのかと聞くと、一種類が大量だと教えてくれた。ならばこっちは種類で勝負だ。

そして九月には、日本一の芋煮会フェスティバルが開催される。今年で二十九回目を迎えた。直径六メートルの大なべに、里芋三トン、牛肉一、二トン、蒟蒻三千五百枚、ネギ三千五百本使う。しかも、全部地元産だからすごいことだ。この三万食の芋煮をすくうのは、大型重機のバックホー。もちろん、一度も使っていない新車だ。

でも、わたしは、たった一度しかこのイベントに参加したことがない。確か第二回のときだったと思う。芋煮を食べることが目的ではなく、ゲストに大好きだった女性アイドル歌手がきていたから行った。風が強くってゲストの髪が乱れていたなあということは覚えている。ゆるキャラ大好き人間としては、頭が鍋の芋煮マンとさといもの里味ちゃんという、芋煮フェスティバルのイメージキャラクターや、大なべ戦隊イモニレンジャーと一緒に写真撮りたいなあって思うけれど、混雑を考えるといつも遠慮している。年齢を重ねていくうちに、人混みが苦手になってしまった。まあ、もともと、わたしは外でする芋煮会ってどうも苦手なんだ。後片付けもいやだし、場所取りとかめんどくさい。

このイベントが始まる数日前の朝に、ラジオを聴いていたら、芋煮をおいしくつくるには、調味料の酒をたくさんいれるのがコツだとリスナーのメッセージが流れてきた。そうか、みみっちいことをしてはダメなのね。こんな話をきいてしまったので、その日の夕食は芋煮を作ることにした。ラジオを聴いていると、献立のヒントがもらえるから、大変助かっている。

スポーツクラブでトレーニングが終わってから、地元で有名なスーパーに行き、芋煮に必要な材料を買い込む。泥付き芋を買うか、すでに皮がむいてあるものを買うか悩んでしまう。皮つきの里芋は、下茹でもかねて十分ほど皮ごと茹でると、つるっとむけるって知ったので、それを試してみようと思ったが、めんどうくさい病が発症してしまったから今回もパスして、皮がむいてあるものを購入した。肉は、奮発して山形牛を買った。やっぱり高くて、牛肉を買う時は夫と一緒に買い物をしたときにするべきだったと思ってしまった。仕方ない。二日分のおやつをがまんしよう。それで差し引きゼロだ。山形牛さん、こんにちは。昨年十二月にすきやきでお会いした以来ですね。平こんにゃくは、ずっとまえに、ダイエット食品として買っておいたままになっていたものを、包丁で切るより味がしみ込むので手でちぎった。

 里芋も柔らかくなり、ねぎをいれ、味付けをしようかと思ったが、料理酒を買い忘れていて、オーマイガ! この日のスポーツクラブでのトレーニングがきつくて、身体がヘナヘナになっていたし、歩いて三分くらいのコンビニに買いに行くのもめんどうだ。行ったところで料理酒がなかったなんてことになるのは時間の無駄だ。あっ! 飲み物専用冷蔵庫に日本酒があるはずだと思いだす。あった、あった。まだ開封されていない日本酒 出羽桜 一路をみつけた。チャンピオン・サケ受賞をし、二〇一六年一二月に、ノーベル医学生理学賞を受賞した大隅教授の受賞記念酒に選ばれたことのある、わたしも大好きなお酒だ。遠慮なく、ドバドバッと、鍋にそそぐ。あっ、いれすぎちゃったかな。まっ、いいか。 

 夫とは夕食時間が異なるので、できあがった芋煮の一人前を小鍋にうつし、そこに玉ウドンを投入。わたしは締めではなく最初からいれて食べるのが常である。さあて食べようか。そう思ったときに、夫用の刺身を買い忘れたことに気づいてしまった。結局はスーパーに行くことになってしまった。ビールを飲む前でよかった。夫は、刺身が大好きで用意していないと不機嫌になる。わたしが心を込めた手料理より刺身が好きすぎるが、料理の献立は楽といえば楽である。

 買い物から戻ってきて気を取り直して、わたしのお食事タイムが始まった。わたしが作った芋煮は、里芋とこんにゃくの味がしみ込んでいて、おいしくできたことがとてもうれしい。そして、この芋煮をつまみにし、山形県産ホップで作ったキリンビールを飲む。(スーパーアイドル嵐の相葉ちゃんがCMしている)まだ四時前だ。明るいうちに飲むビールは、なんておいしいのだろう。ビールは更年期障害にもいいと聞いた。飲んじゃえ、飲んじゃえ。山形に乾杯!

「あっ」

 また思い出してしまった。明日、夫の会社で芋煮会があるっていうことを。うわっ。二日間続けての芋煮になってしまう。でもまあ、作る人によって味は違うんだからいいよね。それに、わたしが芋煮会に参加するわけじゃないから、よしとしよう。

 夜八時過ぎに夫が帰って来た。

「ごめんねぇ。明日も芋煮なのに」

「大丈夫。会社のは、牛肉がいっぱい入っているから」

 すまんなっ! 肉の量が少なくて。これでも大量サービスしたつもりなんだけれどもな。

「おいしく作ってくれる芋煮将軍がいるから」

 それは、わたしのいも煮がおいしくないと言っているように聞こえますけど。

「お酒もいっぱい使ってあるし」

「うちのも、今回はお酒がいっぱいはいってっず」 

 思わず心の声がもれてしまった。夫が少し怪訝な顔をした。

「料理用の酒なんてうちにあったっけ」

「うん。一路使った」

「はっ?」

 しまった。あーとかうーとか言って言葉を濁してごまかせばよかったんだけど、根が正直だから、つい本当のこと言っちゃったよ。

「もったいないべえ。芋煮には安い酒で十分なんだず」

 きつい言い方にカチンとくる。

「そんなに怒んなくったっていいべした。それしかなかったんだもん」

なんで、せっかく作ったものにケチつけられなきゃいかんの? 黙って食えっ。明日、迎えに行ってやらないからな。

「アケビいる?」

 突然話を変えるのは夫の得意技だ。アケビっていうのは、楕円形で果皮が薄紫色だ。熟すと果皮がわれて、中の果実を食べることができる。その果実は、乳白色のゼリー状で甘みがある。黒い小さな種がたくさんはいっているが、そのまま口に含み、口に残った種を出す。なお、日本国内でアケビが栽培されるのは、ほとんど山形産なのである。

「いるに決まってっべ」

 夫が務めている会社には、農家の方とか家庭菜園とかしている人がたくさんいるので、野菜や果物、米などをいただくことがある。もしかして貧乏に思われているのかなと不安もあるというのが正直な気持ちである。

「調理できんの」

バカにしないでもらいたい。わたしは、やればできる子なのだ。

「あっ、俺はいらないから。小さい時に食べすぎた。甘くておいしかったけど、食べ続けていると飽きちゃったかな」

 あなたは中身が好きなのね。昔から、山遊びをする子供の絶好のおやつだと親しまれていたアケビは、山育ちの夫にとっても、ありがたい食べ物だったのだろう。わたしは中身の部分を食べないで、皮を細かく切って油で炒め、それに豚ひき肉を加えて、蜂蜜と味噌で味付けして食べるのが好きだ。苦みが食欲をそそる。アケビは風邪予防にもよいし、美肌効果のある嬉しい食材なのである。

山形の秋は、まだまだ続きそうだ。そして冬は、ゆでた乾麺を温かいまま鍋からすくいあげて、納豆とサバ缶などで食べるひっぱりうどんに、豆腐や油揚げ、キノコなどの具材に納豆を加えたみそ汁の一種である納豆汁が食べられる。あっ、真鱈を身も骨もぶつ切りにして、内臓も鍋に入れて煮込んだどんがら汁だって楽しみのひとつだな。

山形の冬は、雪が降って厳しいから大嫌いなんだけれども、食べ物に関しては別問題なのである。おいしいものを食べられることは、なんて幸せなんだろうとつくづく思うのであった。

 

後日談…二年前に書いたと思われる。スーパーに行ったら、芋煮セットがディスプレイされていました。