ストロベリー&クリームがビターに感じる時

一回のシフトで稼働しているスタッフが

14、5名だったかと思うけど、

セルフサービスが基本の

V&A併設カフェのアルバイトは

時給が29年前だと3ポンドほどだった。


この14.5人の半分がキッチンでの調理、

半分が洗い場とホールに配属。


当日の担当スケジュールが

事務所に貼り出されているので

それを確認してから業務にとりかかる。


29年前の為替が

1ポンドあたり150円ほどだったので

450円時給って信じられない安さ。


学生ビザで入国すると

最大一週間(当時)25時間労働が認められます。


なので

3×25=75ポンド(11,250円/当時レート)

何ができるんだって話なんです。


当時住んでた部屋が

V&Aまで徒歩15分くらい

週80ポンドだったので

まあ、5ポンド家賃が浮くという話ではある。


水道光熱費込みでこの金額ですから、

あと必要になってくるのは

週35ポンドほどの食費

日用品、被服費は

親からの仕送りで賄っていたわけです。




V&Aにひょんなことから

決まってしまったのですけど、

ホテルの日本食レストランだと

5ポンド貰えたはずなので

とても割に合わないバイトをしていた

理由は二つ。


1.イギリスで日本文化に染まりたくない

2.ウィリアム・モリスデザインの部屋で働きたい


ミゲルという歳が23歳、

私より5つ上のスペイン人青年が

私の指導係で仕事を習う。


で、わかったこと。


スタッフの7割がスペイン人、

そのスペイン人の3割が

英語がからっきし話せないか

もしくは

訛りが強過ぎて何を言ってるか理解不能。


お客様が食べていかれた食器を片付け

新しい食器を補充するという

極々単純作業。


そりゃ3ポンドだね?

ってな内容の仕事でしたが

スタッフ同士で

業務上の話をしなきゃいけない時は

あるわけで

いちいち英語が通じない

このリトル・スペイン状態におちいると

ジェスチャーゲームをするのに

時給もらってるのかな、わたし?

という考え方に変わって来ます。


そして、

致命的に私はジェスチャーが下手くそなので

もうダメだ、

ミゲルにスペイン語を習おう

と腹を括り

英語圏にいるのに

職場の公用語はスペイン語のため

必死に習うと

だんだんちょっと

皿周りのことだけは

話せるようになるという不思議。


しかし、

言いたいことは言えるが

相手のスペイン語を

聞き取れないという

別の致命傷を背負うことに。





で、

もう一つ面白いなと思ったのは

謎にわたしのお客さんが来るようになりました。


それは日本語が超喋りたい英国人。


1人毎週毎週やってくる

日本オタクのおじいさんがいまして

見た目がダリな人がおりました。


Wikipediaより拝借


とても日本文化が好きだとかで

V&Aにも日本美術を観に来ていた帰りに

私を手でこまねいて

日本語フリートークをしようと言うのです。


カタコトではあるが、

80歳は超えている人が

あそこまで話せると言うのは

かなり18歳だった私には衝撃的。


ただ気になるのは

そのヒゲは何で固めているのか。


何度も通ってくるので

2ヶ月くらいたった頃に

おずおず聞いてみると

卵白だと言ってましたが

とても日本語に堪能なこのおじいさん

自分のコレクションを持って来て

ねつけなど見せた後満足気に帰って行く。


帰りには必ず5ポンド紙幣を

すっと財布からだして

仕事の邪魔をしたからとチップをくれるので

とても嬉しかった。


最初にマネージャーに言われていた

日本人観光客の対応というのも

もちろんありましたが、

一度パリに留学しているという日本人女性が

個人でここに来てみたけど

英語ができない。

連れ合いの妹が体調が悪く

医務室などが

この博物館にはあるのか教えてほしい

と言うので

マネージャーに頼んで対応したことがある。


思ったより

そんなに日本人の観光客で

てこずったなんてことはありませんでした。


それよりも

私にとって

楽しみ&有益だったことは

賄いの食事でしたね。


ランチタイムのバタバタが過ぎると

十人近くまとまって

お客様にセルフで出してるホット・ミールから

何でも食べて良いと言われていたので、

お皿によそって皆で奥の円卓を囲んで食事。


アラフォーのモロッコ人ウェイター長と

愛国心について討論したり

スペイン人のちょっと歳上の女の子たちと

ミゲルを囲んで愚痴を言ったり

皿洗いのアフリカ人のジャックと大笑いしたり

パティシエのフランス人に口説かれたり

イギリス人のクラブ情報を聞いたり。


私が留学を決めた時、

とある心無い大人の日本人は言った。


青春の一番いい時を

日本で過ごさないなんて

勿体無いことをするもんだね?

と。


でも、

この円卓を

国籍混ぜ混ぜで囲んでいる時に思った。


青春は

青春期の人間についてくるもんであって

どこにいたって

青くて酸っぱい時期は訪れる。



ある日

私がストロベリー&クリームを持ってきて、

そんな甘酸っぱい会話を皆としようとした。




スペイン人の女の子が言った。


あ!

うのふ、

ストロベリー&クリームは食べちゃダメ。

それ一番コストかかってるやつで

数量限定だから

スタッフは食べてはいけないことになってるのよ?



そんなこと今初めて聞いたわ

どうしよう…

と思ってるところにマネージャーが来た。



マネージャーが自分の食事を円卓において言う。



うのふは顧客を広げてくれるから

ストロベリー&クリームは食べたらいい。



え、これ

ヤバいやつやん。

絶対スペイン女子連が

わたしのこと嫌いになるやつやん。



続く…



本日もお読みいただき

ありがとうございました。





うのふ