いや、今更言うなって?​

あれは中学何年生の頃か

同じスクールバスに乗る同級生が、


うちに寄ってきなよ

ジュースでも飲もう


とか

軽い調子で誘われたので

ふらーっと手ぶらでお邪魔する。



一戸建ての4階を

ぐるっと高い塀に囲まれた家。


さほど仲良しでもなかったので

お父さんが何をしてる人なのかとか

全く予備知識なしだが、


門戸の横についたセコムかなんかの

オートロックキーに数字をぴぴっと

入力している同級生に

只者じゃないぞ感を感じる。



まず

玄関に入ってその広さにたじろぐが

そんなのに驚いてはいけないのでは?

と思い

奥からシルバーカーで現れたお婆さんが

ニコニコ笑顔出迎えてくれたので

挨拶をしてあがる。



ダイニングに通されて

椅子に座るのを

同級生が勧めてくれたので

そこに腰掛けて待っているあいだ

彼女がキッチンに行き

ジュースを持ってくるという。





チャンス到来。

周りを伺うのは今だ!


と、中坊うのふは意を決する。



居間のソファーセットが向こうに見える。


その奥にはあれはなんだ

…檜舞台?


え、

普通のうちの中にあるものとして見ないよな

なんだか壁に松の絵があって立派だね

と思っただけ。



同級生がいつもの調子で戻ってきた。



手にはお盆、

オレンジジュースがグラスについであって

その黄色い液体と

松の枝のあおあおした色が

対比をなして目がチカチカする。


チカチカする視界の中で思った。

お父さんの趣味って言えば

つりざお

ボーリングの玉とシューズ

黒帯と白い道着

それぐらいで居住スペースを

侵食していくものじゃない。

何でしたらパチンコなんて

外で完結してるものもありますから

とりあえず

生活区域に、

場所をとらない父の趣味しか

私は知らないのです。




こんなところで

オレンジジュースを

飲むとは思わなかった…

緊張するなあ

早く帰りたいよう

と失礼にも思うのだが

勇気を出して

同級生に指を指して聞く。←結局一番失礼だw!


うのふ:

なんで舞台?←聞き方よw


同級生:

ああ、お父さんの趣味みたいな



それから30年くらい月日がたって

この前、その当時の別の同級生、

Y子にあう。




お父さんが亡くなって

相続した不動産の一階は

デイケア運営会社に貸して

2階部分に父が住んでおった。


今現在は3階部分に

20年前くらいから自分の家族、

夫と3人娘が住んでいる。



建物の北側の隣接した土地に

生前お父さんが営んでいた商店舗が

別棟にあるのだが、

二階建てで

一階をこの度

地域の友達に誘われ

NPO法人登録して

子ども食堂にするらしい。


うのふ、いいなぁ

パン屋でパートなんて

一生に一回はやってみたいわあ〜

なんてY子は悪気もなく私に言うけども

いやいや

私なんて小市民ですからね


きみも子ども食堂で焼いたらええがな

めちゃ体力仕事だが

スポーツと思えば楽しいよ?

なんてアホな答えをするわたし。



そんな話をしている最中、

話題はY子の娘のことに。



今年三女が高校三年生で

将来どうするのか

全く意気込みを感じられない。


長女の時は

自分が受験するのかってなぐらい

一緒に頑張ったものだが、

次女からは本人任せで

自分のやりたいことを本人が

母であるY子と夫に家族プレゼンして

夫婦を説得できなけりゃ

学費は出さないと決めてるそうだ。



ところが

最近、

夫が新しい趣味に興じているのも

最近の変化で

三女に

うっかりしていると

お前の学費は

お父さんの着物代になっちまうぞ、

とドヤしているらしい。




え、

その新しい趣味とはなんぞや?



と私が聞くとY子は、


No


と言った。




お互い留学生時代があったので

そのように聞こえただけだが、


能らしい。





じゃ、

娘さんが上手くプレゼンできなかったら

北側の店舗2階は能舞台になると言うわけか…



どうでもいいけど

あんたら夫婦

Y子はポールダンス

夫君は能楽って

舞ってばかりなのはなんだろうね。


とだけ私は茶化して言ったが

それから一週間して

自宅でAmazonプライムで

ふとつけたドラマにはまる。


2021年の

クドカンTBS金曜ドラマ

俺の家の話




地味な茶色のアイコンなので



一体どんな話なのか

最初はわからなかったが

観はじめたら面白いのよ。




相続、介護、親の痴呆、

今私が興味にしていることがフルセット。


しかも年老いた西田敏行さんの姿が

今の自分の父にそっくりで

感情移入しちゃうんですよね。



奇しくも西田さんの役どころが

能の宗家。


そう言えば、

30年以上前にふらっと訪れた

同級生のうちにあったあの舞台、

私は無学で大衆家庭出身なので

カラオケかなんかやるためのものか?

と思っていた。


あれはあの子の

お父さんの趣味=能

だったんだなと、

ドラマを通して

今更気づくわけです。←おそっ!



そして知らず知らずのうちに

Y子には舞台を作るのか

とか聞いているのもただの偶然。


なんか自宅に

こんなファシリティがあるうちも

広い敷地ところにはあるんだなあ

とあの時思ったからという

それだけなんですが。



で、全10話を

声出して笑ったり泣いたりしたりして

3日位で見終わったあと、

残った気持ちとしては


生で謡とか鑑賞したいな!

でした。



なのでY子のお嬢ちゃんには悪いが

夫君が能舞台つくってくれんかな

とか半分冗談だけど思う。←やめなさい



あの日本人古来から聞いている(だろう)

音の並びには

何か心が洗われるような

不思議な魅力がある。



役者さんで

あんな声を再現できるのって

凄いなあと西田敏行さんの声を

聞いていたのですが

どうも役者選考後に

西田さんは昔、

観世流の観世寿夫さんという方に

謡の指導を受けてたそうとわかったのだとか。




私は小市民なので

ドラマでしか

こんなことへの

入り口はないのですが


いや本当、

ドラマ史上最高傑作という

Amazonでの口コミ評価も

まんざら言い過ぎではないと

思ったお話しでした。



プロレス、家族愛にもご興味あれば

更に楽しめるかと思いますw


ぜんぜん古い情報なので

まあ皆さん

もう知ってる!

と叫ばれそうですが。


ちょっとあまりにも感動したので

書いておこうと思いました。




本日もお読みいただきありがとうございました



うのふ