ミチヲツナグヨル#65 松本耕平・阿部浩二・聞間拓 

熊谷モルタルレコード 240212

 

 
熊谷モルタルレコード
 
松本耕平
阿部浩二
聞間拓
 

聞間さんに、最近、モルタルレコード、来てくれるね、と言われて思ったんですが、モルタルへの道のりがなんでもなくなるくらい馴染んだんだなーと思います。
熊谷って家から40分くらいで近いんですけど、北に上がる移動って普段あんまりないから、最初の一歩までが遠かった。あとほら、時短の時期は始まりも早かったでしょ、職場から行くのはちょっと無理だったんですよね。19時半になってやっと行けるようになりました。いつもちょーギリギリだけど。たまに遅れるけど(遅延の高崎線)。
先月は終電を逃す失態がありましたが、今月は祝日で早始まりのおかげで帰りにご飯食べてっても余裕でした。よかた。
さて、そんなモルタル。今月は聞間さんと、阿部浩二さん、松本耕平くん。阿部さんははじめまして。今回も素晴らしい3組でした。山さん、いつもよきブッキングをありがとう! (写真は「耕平くんを探せ!」状態です・笑)

歌を身の内から強く絞りだす、そんな歌い手ばかりでした。

阿部さんも耕平くんも、MCはほぼなく、ひたすらに歌い続ける。圧が強い。耳がびりつく。
同じように絞り出すのでも、自分自身をひたすらに見つめてさらけだすような阿部さん、自分と周りの人々に向かう愛情籠もった熱を叩きつける耕平くんと、まったく色の違うふたりの「熱」に翻弄される思い。すごく苦しい。痛い。
重ね合わせて共感する、なんて生易しいものではなく、処理しきれないほどの熱情と感情がどかっと押し寄せてくる、そんな歌い手ふたりでした。
最後に聞間さんがふらりと現れて、熱を強くはらみながらも余白も残る、大人のステージングを見せてくれたのが、ふたりとの差がくっきりして面白かった。

三者のそれぞれの熱を楽しみました。
 
 
阿部浩二
 

白線
いこうぜ
シンデレラ
都営大江戸線の歌
夢のあとしまつ
ゆりかもめ
  ほか

はじめまして、でした。
ニコニコやわらかい表情を浮かべて、裸足で(!)、座ったままの弾き語り。足元にはカズーもハモニカのホルダーもあったのに、結局、使わなかった。真っ赤な、赤鉛筆?かな?で殴りがきされたセトリのメモのようなものもあったけれど、やった曲よりたくさん書いてあるように見えました。決め込まずに思いついたようにやるタイプなのかな?などとそんな様子も面白く。

歌詞が面白かったです。ストレート。遠慮がなかった。
「白線」という曲の、駅の白線を巡る景色からジャンプしていく発想、変化の面白さ。
「ゆりかもめ」の淋しさ。
「夢のあとしまつ」の音からはみ出した言葉でどんどんと語る想い。
母を思う、まっすぐな言葉が連なる「シンデレラ」。
どの曲だったか忘れてしまったんですが、「マスクをブラジャーのようにはずす」という表現。平安の頃、顔を見られるのは全裸を見られるのは一緒だったらしい、てことはマスクは下着みたいなもんかもなーって、そんなことを思い出してふと笑いました。着眼点と発想の面白さ。


穏やかな顔なのに声の圧がすごくて、ぐっと後ろに倒されるような気がしました。裏声の美しさも印象的で、そのたびにハッとする。ほとんど語らず、どんどんと歌っていく。体とギターがひとつ、みたいな、振り絞るみたいな、歌っていないと死んじゃいそうな、そんなシンガーだと思いました。

 
 
 
松本耕平
 
バカヤロウ
ケムリ
58
金魚
風来坊
生きてるだけでえらい
 
何度か、耕平くんの声を聴きながら倍音?と思うことがありました。彼の声が不思議な響きをしてることにいまさら気づいた日。
叩きつけるように歌う癖は変わらないんだけれど、前よりも言葉が明瞭に届くようになった、と思います。

阿部さん同様に圧はすごいんだけど、(当たり前だけど)違う圧。言葉と音の怒涛。どんなテンポの曲でもワッ!と言葉が襲ってくる。
歌詞は生な光景よりは文学的な表現で包まれているのに、歌そのものに感情がみっしり詰められているから、耳に届くときはひどく生な印象になる。私の中ではとても不思議な歌い手さんです。「ケムリ」の「言葉を刃に変えて」がそのまんまなんだと思います。聞き手の胸を突き刺す。

高崎希仁(ちひろ)のおかんのことを歌った「バカヤロウ」から、殴るみたいな歌が始まって、がらっぱちな言葉の中の愛情が染みてくる。何度聴いても表現にうっとりする「金魚」、シンプルな繰り返しが耳に迫る「生きてるだけでえらい」が聴けて嬉しかった。

自分の事を「米沢から来ました」と語っていて、前の日にいた場所なんだろうな、と思い、つまりは彼も旅人なんだな、どの土地にも「帰っていく」人で、どこの出身かなんて彼には関係ないんだな、と思いました。
 
 
 
 
 
聞間拓


ひだまり
旅人よ
100%脳ミソ
影踏み
遺書
空一面の君
とんじゃかない
誰かの、何かの日
 
 

前日の赤羽で飲み過ぎたとかで「今日の俺の汗はすべてウーロンハイ」などとおどけつつも、歌は真摯に。
曲の中の緩急の強さ、そのダイナミズムに耳をと心を惹かれました。歌の振幅が強いのです。それだけ揺さぶりも強い。

阿部さん、耕平くんがほとんどMCなしで歌いまくる歌い手だったこともあって、聞間さんの一つひとつ、思いを補いながら進めていくステージの余白が心地よくもありました。突風にぶんぶん吹かれたあとで、逆立った髪や心が撫でられたような心地でした。

久しぶりの曲をやりたい、と話し、ここは専科ですか?なレアナンバー並びで、中でも「100%脳ミソ」は初めてでびっくり。明るいようでシビアな歌詞だなあ。
「遺書」「空一面の君」の万感。吹き払うような「とんじゃかない」の賑やかさの中の故郷への思い。

どの曲にも、場とそこにいる人への想いが満ちていて、ずっと心を刺激され続け、今の自分はたしかに「聞間拓」100%、聞間さんの歌がほんとに好きなんだなと何度も何度も思いました。
改めて、聞間拓のステージ、いいな、歌、いいな、と思った夜でした。

口で言うと恥ずかしいからそっと書いておく。
 
 


今回も刺激的で楽しかったモルタルレコードの夜、でした。耕平くんは一応、埼玉県民枠なんだろうけど、旅人3人で「無国籍」「無所属」な感じの夜でもありました。
終わったあとはみんなで飲みながら、アレヤコレヤ音楽談義。そんなダラダラを許してくれる山さん、いつもやさしいのです。

また会いに行きますよー!