短編小説 歪んだレンズ。 | 学生とカメののんびり小説投稿。

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将来兼業作家を志すとある学生のブログです。
短編と連作短編集を主に投稿していきます。長編にも挑戦するかもしれません。そして、釣りの話が混ざることがあります。
スローペースな投稿になりますが、良ければよんでください!

 

 


 ある男が、部屋のカーテンの隙間から、双眼鏡を使って隣のマンションを眺めていた。

 そんな彼の目に映るのは、明るい光がもれる、ピンクのカーテンのかかった一部屋だ。

 その部屋には、近所の弁当屋で働いている女性が、一人暮らしをしていた。

 実は彼、その女性に、恋をしている。

 彼が初めて彼女を見たのは、三年前の事。

 彼は職もなく、一人で町をぶらぶらと散策していた。

 働くために必要な、本来なら自分で作り出さないといけないやる気を探すように、周りを見回りながら。

 そんなとき、たまたま彼女が働いている姿が目に映ったのだ。

 少し薄汚れた、でも地元の人には愛されていそうな弁当屋のカウンターで、曇りの一切ない笑顔を顔に浮かべながら働く彼女の姿が。

 彼はそれからも何回か、彼女の様子を見に、弁当屋の近くまで何かと理由を付けて通った。

 もっとも彼に話しかける勇気などなく、いつも向いにある公園から、彼女の事を眺めるだけだったが。

 しかし、彼はそれだけでも幸せだった。

 彼女の笑顔を見ているだけで、元気をもらえたからだ。

 彼はその笑顔を資本として、近所のファミレスで働き始めた。

 人見知りである彼には慣れない仕事だったが、彼女の笑顔を思い出すと、不思議と頑張ることができた。

 そうしているうちに、一年が過ぎた。

 それだけの期間が過ぎても、彼はまだ話しかける勇気を生み出せていなかった。

 でも、彼女に対する想いは、膨らんでいくばかりだった。

 だからある日、男は仕事終わりの彼女のあとをつけた。

 彼女の事をもっと知りたい。

 そう思ったからだ。

 彼女は弁当屋から徒歩五分程度のマンションの三階に住んでいた。

 それを突き止めた彼は、彼女の事をまた一つ知れたような気がして、うれしさを覚えていた。

 そして同時に、もっと知りたい、という欲求も。

 彼は、彼女の住むマンションの向かいにあるマンションの六階の部屋を購入した。

 そこに住めば、彼女の部屋をいつでも眺めることができるからである。

 そうすれば、もっと彼女の事を知れる。

 そんな考えを抱いていたからだ。

 そのころになると、彼はファミレスで働くことをやめ、数少ない特技の一つであるパソコンいじりを使い、自宅でデータチェックの仕事を始めていた。

 だから彼は時間の融通がかなり効くようになり、ほとんどの時間、彼女の事を眺めることができた。

 家の中までは見ることができないので、カーテン越しにたまに映る彼女の影くらいしか見えなかったが、それでも満足だった。

 彼は家にいる彼女を眺めること以外に、彼女の身辺警護、と名前の付いた尾行もするようになった。

 そうすることによって、彼女の交友関係も少しずつ知ることもできた。

 そして現在に至る。

 彼はもう彼女についてのほとんどのことを知っていた。

 名前と住所、彼女の生活パターンはもちろん。

 好きな食べ物や動物、挙句の果てにはコーヒーに入れる角砂糖の数まで、正確に記憶していた。

 しかし、そこまで彼女の事を知っていながらも、彼は未だに彼女と言葉を交わしたことすらなかった。

 なぜなら、彼は自分の事を、危ないやつ、と自覚していたからだ。

 自分は世間でいうところのストーカーというやつで、彼女にもし近づいてしまったら、手を出してしまうかもしれない。

 そう思っていたからだ。

 そんなある日。

 彼はいつものように仕事帰りの彼女を護衛(という名のストーキング)をしていた。

 暗い夜道の中、彼女を見ているのが自分だけだと思うと、なんだか彼女の事を独り占めできているような気がして、心地が良かった。

 ……しかし、彼女の事を見ているのは、彼だけではなかった。

 突然、彼女の目の前に、コートを着た大男が立ちはだかったのだ。

 彼は、その大男に見覚えがあった。

 二年前まで彼女の働いていた弁当屋で共に働いていて、その時に彼女に恋をして告白して振られてしまい、そのショックで弁当屋をやめた男だ。

 まさか、彼女の事を諦めきれずに、彼女の事をさらいにでも来たのだろうか。

 悪い予感が彼の頭をよぎったが、きっとそんなことはない、とすぐにそんな考えは振り払った。

 しかし、そういう時こそ悪い予感というものは的中してしまうもので、大男は最初は笑顔を浮かべて彼女に話しかけていたのだが、彼女が途中で申し訳なさそうに首を振ってから、様子が変わった。

 優しそうな笑みがあったはずの顔がどんどん曇っていき、やがて怒りの表情へと変わっていった。
 
 恋の病とはよく言うが、本当に恋というのは一種の病なのだと、彼は初めて知った。

 大男には、戸惑う彼女の顔が見えていないのか、何かを大声でまくしたてている。

 そしてついに、大男は言葉だけでは足りなくなったのか、ポケットから何かを取り出した。

 街頭に照らされて白く発光するそれは、紛れもなくサバイバルナイフだった。

 気づくと、彼は走り始めていた。

 そうして、ナイフを振り上げた大男の腹に、殴りを一発入れていた。

 突然の攻撃に、大男はバランスを崩し、よろける。

 彼は一気に畳みかけようと、もう一度拳を振り上げた。

 ……しかし、その拳を振り下ろすことはできなかった。

 大男に胸倉をつかまれ、そのまま持ち上げられたのだ。

 彼の身長は百六十センチほどだったが、大男は二メートル近い身長を持っていて、体格も圧倒的に良かった。

 ミツバチとスズメバチ、そのくらいの差があった。

 必死に彼は抵抗するが、大男の力は強く、暴れる彼をもろともせず、地面にたたきつけた。

 一瞬、彼の息が止まり、そして全身を痛みが襲う。

 彼はそのまま立ち上がれなくなった。

 そうしている間に大男は、驚きと恐怖のあまり、凍ったように動けなくなってしまった彼女に向かい、ナイフを突き立てて、

 一緒に死のう。

 そんなことを呟きながら、虚ろな目で彼女を見ていた。

 彼女は逃げようと動くが、体がいうことを聞かず、少し後ずさるだけで精一杯だった。

 大男と彼女の距離が狭まり、ついに大男はナイフを後ろに引き、突き出した。

 肉に刃物が突き刺さる鈍い音がして、道路に赤い血が滴り落ちる。

 しかし、その血は、彼女のものではなかった。

 そう、先程まで痛みに悶えて倒れていた彼の腹からナイフを伝い、落ちているものだった。

 ぎりぎりのところで何とか立ち上がり、彼女を庇って刺されたのだ。

 大男は地面に広がった赤い水たまりを見て、ようやく落ち着きを取り戻したのか、もつれる舌で、俺は悪くない、そんな趣旨のことをぼやき、そしてそしてその場から走って逃げ出した。

 一方、彼は刺された腹を両手で覆いながら、その場に倒れこんでいた。

 彼女は彼の腹部から作られた水たまりが広がり続くのを見て、慌てて電話を取り出し、震える手で救急車を呼んだ。

 そして電話をし終わると、顔を彼に近づけ、涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、ごめんなさい、ありがとうございます、そう繰り返して言っていた。

 彼は何とか手をズボンで拭き、血をとってから、二重に見える彼女の頬に手を当てた。

「そう泣かないで……笑ってくれよ。最後まで、僕の好きな君でいてくれよ……」

 彼女は彼の言ったことの意味を、正直分かってはいなかったが、彼の願いを聞き入れて、涙を拭き、いつも店で見せている笑顔になった。

 その時、彼は初めて彼女の笑顔を独り占めすることができた。

 彼女が僕だけのために、笑顔を見せてくれている。

 僕だけのために、ちっぽけな僕だけのために、彼女の事を見るだけでも幸せだった僕のために、僕が見る景色を明るく楽しいものにしてくれた。

 彼は、そんなことを思い、幸せな気持ちに包まれたまま、目を閉じ、そのまま永い眠りについた。

 彼の胸にかけられていた、いつも彼女を見るために使っていた双眼鏡は、先程地面にたたきつけられた衝撃のせいで、レンズが割れて、歪んだ景色しか見れなくなっていた。

 しかし、彼の胸の中には、双眼鏡を通してみても歪むことのない、ちょっと行きすぎてはいるものの、真っすぐで純粋な愛があった。

 確かに、そこには愛があった。
 
  Fin.
 
 
 
 あとがき
 
 前回書いていた話は、両方ともエンドを書くつもりでいるので、書ききれるまで少々お待ちください。
 
 そのため、今日は書き溜めておいた話となっております。
 
 この話は、一人の女性を好きすぎるあまり、ストーカーとなった主人公の話です。
 
 一見すれば、彼の行動は歪んでいたかもしれません。
 
 でも、そのもととなっていた、彼の中にあった愛は、まっすぐで純粋だったのです。
 
 そんな彼の心情を描いてみようとして、この話を書きました。
 
 そのため、正直これは、人の心情を描くための練習として書いたものです。
 
 それがうまくかけているかはわかりません……。
 
 中学生の私は人を好きになるという感情が分からないほど未熟者なので、すべて想像でしか書くことができないのです。
 
 なので多少おかしい部分もあるかもしれません。
 
 もしそんなところがありましたら、よければ教えてください!
 
 ……それでは、今日はここらへんで失礼します。
 
 
 コメント、感想はいつでもお待ちしています!
 
 誤字脱字はご勘弁を……。
 
 では、また次の作品でお会いしましょう! 🐢