短編小説 シロイヌムサシの幸せ宅急便。 | 学生とカメののんびり小説投稿。

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将来兼業作家を志すとある学生のブログです。
短編と連作短編集を主に投稿していきます。長編にも挑戦するかもしれません。そして、釣りの話が混ざることがあります。
スローペースな投稿になりますが、良ければよんでください!

 

「どこかに幸せが落ちていないかな……」

 

 最近ついていない大学生、高橋大地(たかはし だいち)は大きなため息を吐いた。

 

 彼のついてなさは、同情を通り越して、哀れみをも覚えるほどのものだった。

 

 朝起きると目覚ましの故障で遅刻。

 

 コンビニの支払いをしようとすれば、小銭をぶちまけ、大切にしていた自分の生まれたとしに製造された五百円玉をなくす。

 

 夕ご飯を自炊すれば、塩と砂糖を間違える。

 

 その他色々。

 

 とにかくついていない。

 

 今日も目覚ましの故障で早く起きてしまった。

 

 せっかくの日曜日だというのに……。

 

「神様ー。今年のおみくじの大吉はどこへ行ったのだー」

 

 初詣で引いたあの紙切れの効果は、結局気休め程度なのだろうか。

 

 今年は大吉だったというのに、いいことなんて何もないじゃないか。

 

 確か書いてあった内容は……・。

 

 

 待ち人 求めるときに来る。慌てずに待つが吉。

 

 恋 万事うまくいく。積極的にアプローチを。

 

 学問 天才と呼ばれるほどの知能を手に入れるだろう。

 

 旅行 行く先々で出会いあり。特に魚によく会える。

 

 魚運 まさに「魚ー(うおー)」という年になるだろう。

 

 

 ……今思い出すと、後半めちゃくちゃだったな、あのおみくじ。

 

 あの神社、信用ならないな。

 

 何が魚ー、だよ、全く……。

 

 まともな項目には、いいことは書いてあるけど、全然叶っていない。

 

 待ち人、求めるときにくるなら今だ。

 

 幸せを運んできてくれ。

 

 ……。

 

 なんて叶うわけ……。

 

 そう思った瞬間。

 

 部屋にピンポーン、というチャイムが鳴った。

 

 まさか、とは思いながらも、少し期待して玄関のドアを開けると、そこには全身真っ白な服装に身を包んだ青年が段ボール持ってて立っていた。

 

「ども。シロイヌムサシの宅急便です」

 

「……シロイヌムサシ……?」

 

 なんだそのめちゃくちゃな名前。

 

 有名な宅急便の会社に似ているじゃないか。

 

「ええ、シロイヌムサシです。で、これ、お求めの幸せです」

 

 そう言って段ボールを差し出してくる。

 

「ハンコはいりませよ。その代わり、返品、交換は受け付けません。では、失礼します」

 

 段ボールを押し付けて、そのまま青年は去って行ってしまった。

 

 あっという間に去って行ってしまったので、呼び止めることもできなかった。

 

 ……とりあえず、もらったものだし、この段ボール箱を開けてみよう。

 

 にしても、かなり重たい段ボールだ。

 

 何が入っているのだろうか。

 

 そう思いながら、ガムテープをハサミで切って、ゆっくりとふたを上げる。

 

「……あれ、何も入ってない……」

 

 確かに先程までは質量を感じていたのだが、段ボールの中は空っぽだ。

 

 幸せも何も、空気しか詰まっていなかった。

 

「なんだよ。新手のどっきりか?」

 

 部屋を見回すが、カメラなどついていない。

 

 カーテンも閉めてあるし、盗聴器なんかもたぶんない。

 

 一体、これはなんなのだろうか。

 

 何かの幻覚でも見ているのか。

 

 はたまた、何かの呪いか。

 

 あれこれ模索していると、ポケットの中に振動を感じた。

 

 どうやら、電話がかかってきているようだ。

 

 ……父親からだ。

 

「……もしもし?」

 

 普段、あまり連絡もしてこない父が、何の用だろうか。

 

 少し怪しみながらも、電話に出ると、父の焦った声がもれてきた。

 

「もしもし? 大地か? お母さんが、お母さんが!」

 

 ……その先は、よく覚えていないが、こんなことを言っていたと思う。

 

 母はもともと心臓が弱かった。

 

 急な発作を起こすことが今までにも何回もあり、命の危険だってあった。

 

 今回も、発作が起きたようだ。

 

 ……しかも、発見が遅く、意識が戻らない。

 

 僕は電話を切ったあと、しばらく動けなかった。

 

 何とか意識が戻ってきた頃には、もう昼も近い時間帯だった。

 

 こうぼーっとしてもいられない。

 

 母の様子を見に行かなくては。

 

 すぐに服を着替え、財布を持って小さなマンションの一室を出る。

 

 最寄りの駅まで、普段は五分かかるのに、今日は二分で着いた。

 

 息を切らしながら、電車を待つ。

 

 すると、背後から声がかかった。

 

「あれ、大地君? どうしたの? そんなに息切らして」

 

 振り向くとそこには大学の同じサークルに所属している、青木翔子(あおき しょうこ)が立っていた。

 

 ……俺が好きな相手だ。

 

 一瞬見とれてしまったが、すぐに今の目的を思い出し、口早に彼女に話した。

 

 言い終わると、彼女は口元を抑えて、息をのんだ。

 

「大変じゃない! 早くいかないと?」

 

 ちょうど電車が入ってきて、ドアが開いた。

 

「……翔子ちゃん。一緒に来てくれないかい?」

 

 何を思ったか、俺はそんなことを口走っていた。

 

 こんな時に何言ってるんだ、俺は。

 

 バカにもほどがあるだろう。

 

 大体、なんでよりによってこんなタイミングで……。

 

「わかった、早く行こう!」

 

「……え?」

 

 そこからの展開は早かった。

 

 気づくと、彼女に手を引かれて電車に乗り継ぎ、見覚えのある駅までついていた。

 

 そこまでの電車内で、彼女はこんなことを言っていたと思う。

 

 私、大地君のことが好きだから。

 

 一緒に行って、何か力になってあげたい。

 

 そう思ったの。

 

 ……あ、だめだ。

 

 思い出して彼女の言葉に浸っていた。

 

 早く行かなくては。

 

 今度は彼女の手を俺がひき、母のいる病院を目指した。

 

 その道中。

 

 大きな橋を渡っていると、後ろから轟音が聞こえてきた。

 

 脊髄反射で振り向くと、トラックが車道からはみ出し、ガードレールを跳ね上げながら突っ込んできている。

 

 ……死んだ。

 

 そんなことを本気で思ったその時。

 

 俺の体は、前に倒れていた。

 

 彼女が押したのだ。

 

 俺を、かばって……。

 

 彼女はトラックにはねられて、そのまま橋の下に落ちていった。

 

「お母さんのところにいってあげて!」

 

 最後にそう叫んで。

 

 あっという間に、彼女は橋の下へと落ちていった。

 

 俺はその様子をただただ眺めているだけだった。

 

 しかし、すぐにその光景に背を向け、駆け出していた。

 

 彼女も俺が母に出会えることを祈ってくれているのだ。

 

 行くしかない。

 

 彼女はもう、おそらく死んでしまっている。

 

 今は死んでしまっている人より、今生きている人だ。

 

 そして、病院につく一歩手前。

 

 俺は素晴らしいアイデアを思いついていた。

 

 母の発作の直し方だ。

 

 今まで誰も思いつかなかったような治療法で、百パーセント直る保証がある。

 

 そんな方法だった。

 

 病院につき、すぐさまその方法を実践しようと、母のいる病室へ入る。

 

 しかし、そこにいたのは泣き崩れる父と、冷たくなった母。

 

 それだけだった。

 

 ……。

 

 せっかく、全力で会いに来たのに、大事な人を失った。

 

 恋が実ったのに、その人も失った。

 

 いい方法を思いついたのに、それを使ってあげたかった相手はもういない。

 

 こんなことになるのなら、日常がずっとついてないままでもよかった。

 

 ついてなくても、楽しい日々だったほうがよかった。

 

 俺は泣いた。

 

 ただ、ひたすら泣いた。

 

 この非常な現実に、無力な文句を言いながら。

 

 ……涙が枯れたころ。

 

 俺は、シロイヌムサシのことを思い出していた。

 

 何が幸せを運んできただ。

 

 不幸しかないじゃないか。

 

 ついてなくても、楽しかった。

 

 幸せだったあの日々を返せ。

 

 ひたすらにそう思った。

 

 ……その時、どこからともなく、声が聞こえた。

 

「ようやく気付いたか。じゃあ、戻してあげるよ」

 

 顔を上げて、周りを見回すが誰もいない。

 

 しかし、声は相変わらず聞こえる。

 

「お疲れ様でした。来年もよろしくね」

 

 そこまで聞くと、俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 ……耳もとでアラームが鳴り響く。

 

 目を開けると、俺は住んでいるマンションの一室にいた。

 

「……夢だったのか。今の」

 

 どおりで、なんだか展開が早くて、おかしかったわけだ。

 

 あんなに簡単にいろんなことは一気に起きない。

 

 ……今思えば、いい夢だった。

 

 だって、今のこのついていない現実が、幸せなものだと気づけたのだから。

 

 神様は、きっとそれを伝えたくて、こんな夢を見せてくれたのだろう。

 

 やっぱり大吉は伊達じゃないな。

 

 時計は午前五時を指している。

 

 今日は日曜日だが、せっかく早く起きたのだ。

 

 散歩にでも行ってみよう。

 

 マンションを出た彼の目に映る世界は、きらきらと輝いていた。

 

 ……その様子を見て、にやにや笑っていた白い服を着た青年がいたことは、誰も知らない。

 

 Fin.

 

 

 

 あとがき

 

 今回はだいぶ不思議な(めちゃくちゃな)話になってしまいましたね。

 

 反省です……。

 

 

 さて、この話で伝えたかったのは「日常も案外幸せ」ということです。

 

 前にもこんな感じなの、書いたことありますね。

 

 今回はすごい世界観ですけどね(笑)

 

 一応、最初に出てきたおみくじにそってこの物語は書かれています。

 

 ……えっ?

 

 最後二つが叶っていないことですか?

 

 あれはふざけて付け足したものなので、お気になさらずに……。

 

 では、ここらで今日は失礼します。

 

 コメント、感想など、いつでもお待ちしています。

 

 誤字脱字はご勘弁を……。

 

 また次の作品でお会いしましょう! 🐢