2012年3月 異伝ヤマタノオロチ-脚本・演出:亀尾佳宏さん- | 雲南市創作市民演劇

雲南市創作市民演劇

主催/雲南市演劇によるまちづくりプロジェクト実行委員会

2012年3月異伝ヤマタノオロチ

脚本・演出:亀尾佳宏さん

 

<本番直前インタビュー>

 

-公演まで残り1ヶ月を切りました。ここまでの満足度、仕上がり具合というのはいかがですか?

公演のために集まったこの市民演劇のメンバーで、面白いことが出来るなという感触は出来てきました。
ですが、まだこれから、残された日数で作っていかないといけないところも多いと思います。
参加者の皆様にはいろいろとご苦労をおかけすることもあるかと思いますけど、最後は良いものが出来るという確信が……。
確信はちょっと言い過ぎですかね。期待をしています(笑)

-市民演劇という話が出ましたが、このメンバーが集まったのを見て、最初はどう感じられましたか?

まず50名弱の方が応募してこられたんですが、最初はそんなに集まるとは思っていなかったので、非常に嬉しかったです。演劇をするという事に関心を持って頂いた方がこれだけ、しかも市の内外・県の内外問わず来られたというのがまた嬉しかったですし、驚きでもありましたね。

-県立三刀屋高校は「ヤマタノオロチ外伝」で全国大会出場(※2012年度)を果たされています。その外伝との違いによる見所は何でしょう?

元々、根っこのところは同じですし、設定や登場人物なども重なっているところもあります。
ただ、私は集まったメンバーでどう作り上げていくのかというのも凄く面白いものだと思ってます。
ですから、ヤマタノオロチ外伝は高校生がやる演劇として一つの形になったものだと思いますし、市民劇は全く違うメンバーが集まったことで、当然作るお芝居も変わっていきます。また、メンバーを見ながら書き足した設定や人物もいます。そういう意味では、根っこは同じですが、お芝居としては全くの別物だと、私は捉えています。
観て頂く方々にも、そう思っていただけたらなと思います。

-亀尾さんの脚本では、言葉を使った遊びと言いますか、いろんな言い回しが出てくるように感じています。普段から考えているのでしょうか?

あれは、台本書きながらですね。普段はほとんど思いつかないです。
ダジャレとかも得意ではないので、日常の会話ではあんまり無いですが、たまに他の人が言った言葉が「あ、こうも聞こえるな」とか思うときはあります。
特にメモを取ったりするわけではないので、たいていすぐ忘れます(笑)
台本を書いている時に自然と出てくるのが、一番多いですね。設定やシーン、セリフなどで「全然違う意味なのに音が重なる」と感じた時に、どんどん書き進めていきます。全然意味の無い事なのかもしれませんが、普通の言葉に別の意味が重なっていくと、一つの言葉で二度美味しい、みたいな所があるのと、リズムを生んでくれるという点が好きで使っています。



-舞台の話からは少し逸れまして。亀尾さんは、島根のここが好き!というのがありますか?また、今回演劇で交流する奈良には何か思い出がありますか?

僕は出身が広瀬町(島根県安来市)というところで、過去に尼子の居城であった月山富田城や山中鹿介のお話なんかは、小さい頃から触れてきましたので好きですね。単純に、広瀬の町並みというのも好きですよ。
今は雲南市に住んで8年くらい経ちますが、その雲南市にしかない神社などの場所、それから川や桜といった風景が気軽に見られる所も気に入っています。
あとは、夏。よくホタルを見に行きますが、小川の横で見るホタルや星空にも惹かれるものがあります。
奈良はですね、中学校の修学旅行で行ったのが初めてです。
大仏の鼻ですかね。鼻の穴と同じ大きさの柱をくぐれるんですよ。
あれが一番思い出に残ってますね。

-最後に、今回の舞台を楽しみにしていらっしゃる方にメッセージをお願いします!

ヤマタノオロチというのを題名に使ってはいますが、「歴史」というよりは「物語」を、集まったメンバーと作りたいと思っています。
ですので、ひとつの物語として面白いといっていただけたらなと思います。
集まったメンバーというのは、皆仕事を抱えている中で休みをあわせたり、仕事終わりに集まったりしています。
今回の舞台をきっかけに集まったメンバーが、大人たちが一生懸命やった遊びの成果を見てもらって、一緒に楽しんでもらえると幸いだなと思います。
それと、今回のお芝居は作った物語ではありますが「じゃあ、本当の古事記ってどうなの?」といった感じで実際の古事記というのに興味を持ってもらいたいですね。
その中で日本のルーツの1つである島根や雲南という土地に興味を持って訪れてもらったり、古事記に対して想像を広めたりもらえたらなと。
そして、演劇って面白いなと感じてもらえたら嬉しいなと思います。

 

 

<パンフレット寄稿・「彼(か)の物語」


歴史好きの兄がいた。
神話をモチーフに芝居をするなんて言ったら、お前にそんなものが書けるのかと笑ったことだろう。けれども彼は笑わない。僕が雲南市に移り住んで間もなくの頃、兄は突然いなくなってしまったから。
時が経つにつれ、兄のことを思い出す時間が少なくなってきた。ふと思う。思い出す者が一人もいなくなってしまったらどうなるのだろう。そのとき彼の存在は、永久に消滅してしまうのではないか。だから時々、昔の写真や子どもの頃に遊んだ玩具を手にとってみる。そうやって彼(か)の岸へ行った者のことを想像する。そうすることで消え去った者を此(こ)の岸にとどめようとする。


「history」は「His story」だ。そんな言葉を聞いたことがある。事実はどこかにあったはずだ。決して復元することも複製することもできない人や関係や出来事が。しかし過ぎ去り消えてしまった日常を取り戻すことはできない。だから想像する。かつてあったはずの痕跡と痕跡を想像力でつなぎあわせて紡ぐ「彼(か)の物語」果たして古事記というこの国最古の歴史書に残された痕跡は、一体誰の物語だったのか。

今回出演してくださる松村武さんと初めてお会いした日、雲南市にある古事記ゆかりの地を訪ね歩きました。すべてが初めて訪れる場所でした。近くにいながらそこへ行こうともそこを知ろうともしなかった愚かさを恥ずかしく思いました。と同時に誇らしく思う気持ちも湧きました。自分が住んでいる土地に、こんなにも多くの、この国の始まりの痕跡がある。
その一か月後、40人を超えるメンバーが市内から、市外から、あるいは県外からこのホールに集まりました。脚本も演出も役者も裏方も、松村さんをのぞいてはすべて素人。そのほとんどが初対面。そんな連中がそれぞれの日常を持ち寄って稽古をしていくうちに、友や家族や恋人のような絆を結び、一つの物語をつくりました。
ご容赦ください。あらかじめ申し上げておきます。これは、みなさんの知っている神話ではありません。彼方に消えた日常とその痕跡、この土地と演劇、人と人とがつながり、想像力によって生まれた物語。今日、ここでしか観ることのできない物語。終わってしまえば。これもまた過去へと消える物語。
みなさまの心に「此(こ)の物語」がわずかばかりでも痕跡をとどめ、この地にあったかもしれない「彼(か)の物語」に思いをはせていただく機会になれば、それにまさる幸いはありません。
この公演に関わるすべての皆様と、ご来場くださったお客様、支えてくれた家族に感謝します。本当にありがとうございました。
 


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2012年、亀尾さんが初めて市民劇の脚本・演出となった年のものです。

誰もが手探りの中でしたが、大人が集まる得難い環境のなか稽古は進み、満員の中での公演となりました。

 

当時は別ブログでしたが、当時のアンサンブルメンバーのインタビューなども残っています。

もし興味のある方は、また読んでみてください。

 

次回は特別出演・松村武さんの特集です!

なお、今回の10周年記念のためにショートインタビューにもお答えいただきましたので、そちらもお楽しみに!!