花狩
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久しぶりに田辺聖子さんの『孤独な夜のココア』を
寝る前に1章ずつ読んでいて、この人の小説を他にももっと読みたいと思い、
さっそく世田谷図書館の文庫本の中で、出版年月の一番古いものを読んでみた。
それがこの『花狩』。
昭和50年初版、私が生まれる5年前。

久しぶりに夢中になった。

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大正から昭和の敗戦までの大阪のメリヤス街が舞台。

主人公のおタツは、働き者で賑やかなのが好き。
悪いことをくよくよ考えて悩んだりしない。
色白で、たっぷりした艶のある黒髪を持っている。

物語のはじまりで、おタツは17歳でメリヤス屋で働く女工。
同じ職場で働く色白でイケメンの半次郎に惚れている。

半次郎は女たちから人気のきれいな顔の男だが、優柔不断でなよい。
やはり同じ職場の市助は、ふざけたお調子者だが要領がいい。

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裏表紙には”苦難の限りを耐え抜いた女の一生”とある。

確かにおタツは、”苦難の限り”にあっていく。
でも、小説全体は暗く重たい印象ではないのはなんでだろう。
おタツがどんどん生きていくからかな。
どんどん生きるおタツを追って、どんどん先を読みたくなる。

文体は、解説に著者自身が「語り物」のスタイルの美しさを実現したかった、とある。
調べたら「語り物」とは、拍子を取りながら語って聴かせる物語のこと。
会話は、関西になじみがない私は聞いたことのないような大阪弁。
文章はリズミカル、関西弁でこぎみよく、読みやすいと思う。

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途中から、おるいという女性がでてくる。
浅黒く骨ばっていて、逃れられない不幸を思わせるクマのある女。
おタツが自分よりも恵まれた状態のときには否定的な気持ちを持ち、
自分よりもかわいそうなときには庇護の気持ちが湧く。

物語に対照的な女性が数名が出てくると、自分はどちらだろうかとたまに考える。
今回、私はやっぱりおるいだわ、と思う。まず色白じゃないし。
他人の幸福をねたむタイプ。

自分では深く語られるべき内面を持っていると思っていて
おタツのような楽天的な女を軽蔑しがちだけれど、
実際は、見たままの典型的な型で語りきられてしまう不幸女。
(私はそこまでじゃないと思うけど)

おるいを主人公に物語を書いたら、この一代記も
ずうっと暗く、時代に対する恨みの物語になるかもしれない。