本の紹介です。演劇をやる前から美大にいたこともあって、単位を取るためにかなり幅の広い芸術関係の書籍を読みました。芸術論や随筆などが主でしたが、その頃は自分には受け皿がないというか目から入って頭の後ろに通り抜けていったように思います。でも課題図書は本棚に残るので、後になってふと読み返し、ずっと繰り返し読み返すうちにいつかキチンと人生の肥やしになってる辺りがしてやられたというか、もう亡くなってしまわれた教授の知恵に今更ながら感心する最近です。

いくつかある中のひとつが、大江健三郎の“あいまいな日本の私”。とても有名な本なのでご存知の方も多いでしょうが、川端康成のノーベル賞受賞記念講演“美しい日本の私”になぞらえた氏の同講演と、他いくつかの講演内容をまとめた本です。最近だと村上春樹のエルサレム賞のスピーチが話題になりましたが、あのように世界に関心のある人々が心を開いて耳を傾ける場で、自分の態度を明確にする意志、又は明確にできる態度を持っている人はとても魅力的に感じられるなと羨んでいる自分は“一般的な日本の私”ですが、この本はそれほど政治的にハードメッセージではなく、でもとても豊富な示唆を感じられる内容になっています。

深まる秋の芸術日和、夜長の肴に宜しければ。

乗峯