マスコミに社会の公器としての自覚があるのだろうか?
10年近く前に書いたものだが、状況は変わっておらずむしろ悪くなっているのではと憂慮する次第。お読み頂きたい。
平成19年6月29日
UNK通信第92号
社会の公器「新聞」が求められるもの
新聞の本来の使命は「言論報道」ではないかと考える。しかし現在の多くの新聞は単なる「情報サービス」の媒体となっているように感じられる。情報というのは「ある事柄についての知らせ」であり、言論報道は「社会の出来事などを広く告げ知らせる際、その事柄に対する思想を発表して論じること」である。先日、塩野七生さんが日本記者クラブで講演されたが、新聞のあり方について次のように語っておられた。「活字はもはや速報足りえない。五輪や大リーグで日本人が活躍したとき、ローマで一日遅れの日本の新聞を買うことがあります。なぜか。日本人選手の活躍をもう一度味わいたいから。もうひとつ。記者の解釈を読みたいからです」と、「記者の解釈」が新聞の命綱であることを強調しておられたのが印象的であった。
言論報道において重要なことは、思想・論説の質が高いことと品格ではないかと考える。平成18年4月30日の産経新聞の「正論」欄で慶応大学の阿川尚之教授が「新聞は自身への異論にも寛容たれ」と述べておられるが、自分だけが正しいと異論を排除するのではなく、他者の意見をも合わせ論評する寛容さが求められる。朝日新聞はかって、日本のクオリテイーペーパーといわれた時期があった。しかし、現在の朝日新聞をクオリテイーペーパーと呼ぶ人はいないようである。その一つの原因は朝日新聞の持つ独善性がある。自社の意見に反するものを一切認めようとしないし、他者の誤りは徹底的に追及するが、己のそれには目をつぶる。朝日新聞が過去の栄光を失ったのにはそれなりの理由がある。以下考えられる理由のいくつかについて述べてみる。
新聞には新聞社の経営権、編集権がある一方、読者の真実を知る権利があり、この三者の関係が正しく守られることが必要である。現在の新聞の問題点は、編集権が正しく機能していないところにあるのではないか。朝日新聞や日経新聞の経営者は、秘書上がりの事務処理能力は高いが、最も ジャーナリスト的でない人物が多いようである。朝日新聞で言えば平成17年まで社長を務めた箱島氏は経済部の出身で「これからの新聞は会社としての視点を入れなければ生き残れない」と考えたのであろう。オールド左翼から抜け出せないでいる「編集の論理」を「経営の論理」に変えて生き残りを図ったのであろう。しかし自覚も見識もない人間がトップに立つと会社を私物化し、組織は急速に退廃する 。箱島社長の6年あまりは、不祥事の連続であった。その象徴的なものが平成17年3月の武富士からの編集協力費隠蔽事件であった。(武富士は批判記事に必ず名誉毀損の訴訟で報道を封殺しようとしていた。この企業から編集協力費をもらっていたのである)朝日新聞の主な不祥事を最後に記載しておくので参照されたい。
朝日新聞よりさらにひどいのが日経新聞であり、他の新聞にも似たようなところがあるのではないか。新聞業界がこのようにおかしくなったのには、明確な理由がある。現在、日本は構造改革で沸き立っているが、戦前の古い体質を今も残しているのは実は新聞業界なのである。新聞の歴史を見ると軍部への屈服と迎合の歴史ともいえる。昭和6年の満州事変以降、戦時体制となり言論統制が始まった。第一歩は通信社の統合であり、次いで内閣情報局の新設となり、昭和13年の国家総動員法により自主的統制機関である新聞連盟が設立された。新聞の共同配達、共同集金、共同輸送を実行する共同販売制度が出来た。戦後はこの体制が継続し言論統制が軍部からGHQへ受け継がれることとなった。この昭和16年体制が存続した陰には次の二つの法律の存在がある。一つは日刊新聞特例法で新聞社に株式の譲渡制限を認めたものである。これは経営者が会社を私物化するのに非常に重宝なものであった。日経新聞の場合、社内株式保有制度というものがあり、共栄会を通じてしか株の売買はできず、おまけに株式の価格は1株100円と決まっており、経営者が圧倒的権限を持っているのである。現在元社員から日経新聞社は訴えられ裁判中である。
もう一つは独禁法の特殊指定である。これは再販制度の容認であるが、現在日本で再販制度が認められているのは新聞くらいのものである。再販制度というのは簡単に言えばメーカーが小売業者に値引き販売を許さぬことである。戦後独禁法の施行により、新聞業界は秩序なき乱売合戦を行った経緯がある。新聞販売綱領を作り秩序回復を図ったが自ら作った綱領も守れず、言葉は悪いが、ならず者集団と化していった。どうにもならず、これを何とかしようと公取委が特殊指定の公告を昭和30年12月29日におこない、それが現在も続いているのである。自分たちは、ならず者集団だから、お上が何とか取り締まってくれということで、本来なら極めて恥ずかしいことであるが新聞業界は平気なのである。これ一つ見ても新聞社の本質が見えてくるといえば、言い過ぎであろうか。
自分たちの権力を維持するためには何でもするという新聞経営者の例をあげる。日本を代表する有名大企業で、一年間に社員の逮捕者が6人も出た例があるだろうか。また3年間に2回も東京地検特捜部のお世話になった会社があるだろうか。あるのである。日経新聞社である。平成18年2月、広告局金融広告部の笹原一真被告のインサイダー取引が発覚、7月に逮捕された事件は記憶に新しい。7月20日、他社は朝刊でこの報道をのせたが、当事者の日経新聞は、この記事をのせず、その代わりに昭和天皇の富田メモを特種記事として一面にのせたのである。この富田メモは偽造の疑いもあり、発見の経緯を見ると、この朝にのせる必然性は皆無であった。見えてくるのは何とか自社のインサイダー事件を読者の目から隠蔽しようとする自分達の保身の悪あがきである。自分たちの保身の為に昭和天皇まで利用するとは呆れてものがいえない。
新聞業界は社会の木鐸としての誇りを持って、一日も早く覚醒してもらいたいものである。そのためには新聞記者が自由に発言できる会社でなければならない。産経新聞はその点署名記事が多く、責任と自信を持って記事を書いている記者の顔が見えるのが嬉しい。その為か古森、黒田、高山記者等名物記者が多く育ってきている。情報サービス会社に堕している新聞社は一日も早く、まっとうな言論報道機関となってもらいたいものである。民主主義で大切なのは国民の良識であり、それを担保するのは健全な質の高いマスコミでありその中でも、最も影響力のあるのは新聞である。
朝日新聞の主な不祥事一覧:
①S25-9 伊藤律氏に対する架空会見記・・・記事の捏造②S56-2 建設業界秘密会合の盗聴未遂事件③H0-4 西表島のサンゴ事件・・・自作自演報道④H12-6 中国新聞の記事盗用事件⑤H16-8 取材録音記録の第三者への提供事件⑥H17-3 武富士からの編集協力費隠蔽事件⑦H17-8 NHK番組を巡る取材資料流出事件⑧H17-8 取材メモ捏造事件(新党結成をめぐる田中長野県知事取材記事捏造)⑨H18-9 甲府総局記者の酒気帯び運転事件⑩H18-11 大阪社会部記者の現金受領事件 因みに日経新聞はさらにひどい。S65年以降でも主なものは18件である。