年も明けて春には、弟の徹朗が入店することになりました。彼はなかなか勝気で自分の考えを押し通すところがある。彼を活かすにはいつかを別の店を作って彼のその店を任せよう!と早くから考えていました。
その彼が卒業と同時に友人を連れてきたのです。兄貴の凄さを友人達に伝えた結果、なんと一番弟子としての候補者を連れてきたのです。自分に弟子ができるなどと考えた事も無く、なんとしても大切に育て上げたい。弟とまったく同じ扱いをして彼に望みました。そして2週間が経過したとき、突然、彼はお父さんを伴って、退店を申し出てきました。
退店理由をお父さんから告げられたとき、なんとも切なく思いました。その理由は彼の実家は日本橋で有名理髪店を営んでいるのです。そのお父さんから見れば、蕨などという田舎の地で理髪店を営んでいる若者の私などに息子の師匠として認めるわけには行かない。
今考えれば当然かもしれませんが、
「蕨何ぞでやっている師匠に何ができる!」
というような疎外感は実に悔しい思いをしました。そしてお父さんに向かって自分は「金ちゃん」を弟と思っている!その強い気持ちで彼を育て上げたい!ぜひ私に育てさせてください。と懇願いたしました。しかし彼のお父さんはそれを認めてくれませんでした。残念ながら第一号の弟子を迎えることができなかったのです。