その顔は人間に似ていました
シワの多い老人の顔に似ていました

ただ、今となっては正確に思い出せないのですが
口だけは、ケモノじみた形だったように記憶しています
奥まで裂け、牙が生えていたような気がします

目は、人間の老人が大きく見開いたような形状でした
顔全体は、シワくちゃで、真っ黒でした

全身は、やはり老人のようで、腰も曲がり、ひざも曲がり
そして、やはり真っ黒でした

このバケモノは、笑いながら、私に手招きしたのです

手招きした指は、節くれ立って、細長く曲がっていました

こうして描いてみると、なにやら怖ろしいバケモノとの遭遇です
しかし、私に恐怖感はありませんでした
それというのも、そのバケモノの笑いは
自分の無力の照れ笑いに見えたからです

「どうせ、お前は、こちらには来ない」

そんな”彼”の声が聞こえたような気がしました

彼がいくら手招いても
私が、そちらには行かないことが分かっている
そんな、無力感からくる照れ笑いだと
私は、はっきりと、そう感じました
だから、まったく怖くなかったのです

車がそこを通り抜けた後
私はバックミラーを確認しました
車のルームミラーには、橋のたもとが見えました
しかしそこには、人影のようなものは、何も見えませんでした