今から10年ほど前のことでした
現在の事務所を作る前でした
私は家から少し離れたマンションに事務所を持っていました

当時は税務申告を自分でしていましたから
確定申告の季節になると
深夜まで事務所で一人、仕事をしていました
伝票を整理し計算するという作業は
雑務の多い昼間では集中できないからです

深夜12時をまわる頃、家に帰りました
家は近いので深夜なら自動車で5分ほどです
私は、いつもの川沿いの道を走っていました

その川には一箇所、人や二輪車しか通れない細い橋があります
私の車がその橋のたもとに近付くと
橋を渡ってくる、腰の曲がった老人の人影がありました

私は、高齢の老人が深夜に徘徊して、そこを歩いているのだと思いました

「困ったもんだ・・・」

そんなふうに考えながら
私は、たぶん、少し減速しながら、橋のたもとに近付いていったはずです
彼が橋を渡りきるのと、私の車が橋のたもとを通り過ぎるのが
ほぼ同時になると思えたからです
深夜に老人を轢く・・・などという事態は避けたかったからです

当然ながら、橋のたもとで
私は、橋を渡ってきた老人の方を見ようとしました
そして”彼”もまた、私を見たのです

”二人”は目が合いました

そして・・・”彼”は人間ではありませんでした

人間ではない・・・真っ黒な顔で・・・笑いながら・・・私に手招きをしたのです