いつしか木村氏には
親戚からの慶弔の誘いも絶えていました
たくさんいた友達も離れていきました

「あいつは頭がおかしくなった」

「バカが伝染るから、近付くな」

人々の、そんな陰口を木村氏は知っていました
道で誰にも出会わないように、夜が明ける前に畑に出かけ
日が暮れて、人影がなくなってから家路につくのでした
岩木山山麓の畑まで、歩けば往復4時間かかる暗い道を
木村氏は、毎日歩いて通ったのでした

貧困だけが、周囲が木村氏を遠ざけた理由ではありません

木村氏がりんご栽培を始めた頃
青森県は、リンゴの病害虫に関する条例を定めました
リンゴの病害虫に対し、肥料・農薬等で徹底した管理を行い
防除しなければならないという条例です

病害が認められた場合、適切な防除管理を行うよう通告され
通告を無視すると、強制伐採のうえ、30万円以上の罰金が科せられるのです
木村氏の知るかぎり、3軒のリンゴ農家が強制伐採を受けていました

主に、放置園を対象とした条例です
放置するどころか、人一倍手入れをしていたのですから
木村氏は、なんとか取り締まられずにすみました

病害虫が蔓延すれば、被害は一戸の農家にとどまらず
周辺に大きな損害をもたらすおそれがあります
リンゴ生産者の病害虫に対する警戒心は非情に強いものがあるのです