太宰治の作家としての価値は
近代日本の男性の作家の中ではめずらしく
女性を描くことの出来た小説家であることです

それまでの日本の近代文学に出てくる女性像は
性格がよく分からないものや、極端な性格を強調したものなど
あくまで男性の好奇心を刺激する女性像にかぎられていたと、私には思われます

魅力的な女性を恋した男性の、心の中の女性像であり
女性自身が何を感じ、何を考えているのか、いま一つはっきりしないものでした
あくまでも、男性の側からみた女性像でした

太宰治は実際の女性の日記等を材料に女性を描いたわけですから
リアリティーが違うのは当然です

それ自体は太宰治の創作ではないけれども
現実に存在する、生きた女性像を描こうという志をもったこと自体が
太宰治の作家としての新しさであり
日本文学史上の、太宰治の存在の大きさなのです

太宰が女性を描くことに巧みだったのは、背景には彼の恋愛体験もあるでしょう
しかし太宰が新しい日本の現実を描こうとした意志は
個人的体験を超えた志があったからです

太宰の小説はスキャンダラスな題材を扱っていて
観念的な禁欲主義とも、綺麗事の”恋愛”とも無縁です
かといって好色文学とは、まったく違います

現実的な女性像と恋愛を描きながら
好色文学とはっきり決別したところに
太宰文学の本当の創造性と現代性があると思います