私は太宰治のファンなのですが
今さら、彼の小説を読み返したいとは思いません
小説の愛読者というのとは、ちょっと違うのです

私にとって太宰治は、たんなる小説の作者ではありません
人生観や社会観の形成に大きな影響を受けた知識人なのです
精神的な意味の”人生の師”なのです

太宰治やその小説の主人公の人生は、私の人生とは無縁です
しかし、太宰治の、ものの見方や考え方は
今なお、私の人生の指針となっています

それを一言で言えば
世俗の価値観に惑わされず、真実を探求するということです

太宰治の業績は、これまた一言で要約すれが
”現代日本文学の先駆け”です

日本の、明治維新以降の急激な近代化は
欧米の知識を身に付けた一部エリートによって指導されたものです

小説の世界も、エリート向けの純文学と
一般向けの大衆文学とに分かれていました
エリート意識の強い者は、大衆文学を通俗小説と呼び、見下していました

太宰治は欧米型教養を背景とする純文学を指向しつつも
すでに一部のエリートの独占物でなくなった近代的教養と生活スタイル
つまり、近代化した一般の日本人の
生活と意識を描き出す文学を模索したのでした

しかし、いかに太宰治の天才的想像力をもってしても
大衆の心を、簡単に描き出すことはできません
そこで彼が注目したのが日記でした
プロの作家ではない、普通の人の日記こそが
大衆の心を知るもっとも確実な材料だったからです