今回は、ウォーキングをする時の目線について解説します。


歩くのに夢中になると、ついつい目線が下がってしまいがちです。

そのため、ウォーキングの解説書には「真っ直ぐ前を見ましょう」と書かれています。

しかし、具体的にどこを見ればよいか分からないという人も多いと思います。


ここで言う目線とは、視線ではなく地面に対する頭の傾きのことを指しているのです。

それでは、何を基準に頭の傾きを決めればよいのでしょうか。


一般的に、水平面に対する頭の傾きを決める基準として、両目を結ぶ線が挙げられます。

人間が直立した時は、眼窩(眼球の収まる骨の窪み)下縁と耳珠(耳の穴の前方にある突起)上縁を結んだ眼耳平面(フランクフルト平面)が、地面とほぼ平行になることが知られています。

一方、歯科医学の分野では、鼻翼(鼻先の左右の膨らみ)下点と耳珠上縁を結んだカンペル平面が、上顎(じょうがく、うわあご)の前歯と奥歯を結んでできる咬合平面と、ほぼ平行になることが知られています。



このうちフランクフルト平面は、レントゲン撮影をする時に、水平面に対する頭の傾きを決める基準として使われます。

またカンペル平面は、歯科で入れ歯を作る際に、上顎の咬合平面を決定する基準として使われています。


「真っ直ぐ前を見ましょう」と言われた時に、ほとんどの人は目で前を見ようとするので、フランクフルト平面を基準とした頭の傾きに近くなります。

しかし実は、カンペル平面もしくは咬合平面を基準とした頭の傾きを使った方が体を動かしやすく、ウォーキングに適しているのです。

その理由は、首の前側にある舌骨筋群を引き上げることによって、頭と体幹が連動しやすくなるからです。

問題は、これらの仮想平面は、もともと他者の視点で頭部の傾きを評価するためのものであることです。

例えば、自分自身のカンペル平面を頭の中でイメージしながらウォーキングするのは、慣れないと難しいので、誰かに頭の傾きをチェックしてもらうか、鏡に自分の顔を映しながら歩くなどの工夫をしなければなりません。


そこで、もともと人間の体の中にあって、水平面の基準となりうる器官をセンサーとして使うことにします。

それは、口腔(こうくう、口の中)の天井部分にあたる口蓋(こうがい)です。

口蓋は、上顎骨の口蓋突起と口蓋骨の水平板で構成されている硬口蓋と、その後ろにある軟らかい組織でできている軟口蓋からなります。


口蓋は咬合平面に近く、直立二足歩行の際に地面に対して平行関係となりうる数少ない器官の一つなのです。

さらに、硬口蓋の骨組織を覆う口蓋粘膜には、知覚神経が分布していて、地面に対する頭の傾きを知るためのセンサーとしての役割を担っています。


試しに、基本の立ち方で立って、頭を上下左右に傾けることで、口蓋粘膜の感覚がどのように変化するかを感じてみてください。

また、何か目標物を決めて、目を向けるのではなく、上あご(口蓋)を対象に向けるようにして物を見る練習をしてみてください。

それができたら、真っ直ぐ前を見る時に、目で見るのではなく、上あご(口蓋)を前に向け、上あご(口蓋)で前を見る練習をしてみてください。

すると、自然に咬合平面(カンペル平面)が床に対して平行になってくると思います。


なお、頭の傾きを調整する時は頭だけを動かして、できるだけ首を動かさないようにします。

首を動かすと、姿勢が崩れてしまうからです。