バラの花束
うちの母はカーネーションは好きではない。
「赤いバラにしろ」
というので毎年バラを献上している。
好きだった彼の
お母様が倒れられて
病院からやっと外出できたのが
母の日だった。
彼は雨の中、お母様を車から降ろしていた。
私は傘を差して母親にあげるバラの束を抱いて歩いていた。
何をしているのかお互いに携帯メールで分かっていて
同じ雨の中に姿を見ているような気がしていた。
母の日以降、お互いを見ている
というイメージが消えた。
母親のバラが散ったときに
終わった、と知ったが
彼のお母様はそのままの状態なのか
亡くなってしまっているのか
知る機会はない。
今年もあの時と同じように
母のためのバラを抱いて歩く
このなんでもない年中行事が続くのが
奇跡のように思える。