「俺たちはこれをしなきゃ生きていけないんだよっっ!
オマエたちみたいなよそ者に分かってたまるかっっっ!!!」
そう言われると、
僕たちは捕まえた腕を離すしかありませんでした。
中学生とも高校生とも分からない少年は、
振り返りもせずに走り去り、その姿は夜の闇の中に飲み込まれていきました。
僕と、
ペアを組んでいた青年の間には重い空気がただよい、
それは決して薄れることはありませんでした。
●●●県△△△市、
今回の震災で被災した場所の一つでのことです。
ペアを組んだ青年と出かけた夜の散歩で、
僕たちは偶然、空き巣に遭遇しました。
今でも、
あの少年を逃がしたことが正しいのか、
それとも過ちであったのか、分かりません。
ただ、数日しかそこにいない僕たちには、それがひどく判断の難しいことのように思えました。
倫理などという言葉は、何の役にも立ちませんでした。
僕は、東京へ戻るバスの中で、
「先生!」と呼ばれ、
教壇に立った日のことを振り返っていました。
場所は、新潟県中越でした。
中越沖地震の直後、
まだその爪痕が残る、そんな時でした。
まだ教員採用試験に合格することができず、
非正規の教員として、講師として2年生の担任になりました。
両親を震災で失ったり、そのPTSDに悩んだり・・・
そんな子どもたちが僕の初めての生徒でした。
もう随分長い間会っていませんが、
きっと、あの少年くらいの年齢になっているはずです。
切に願うのは、
あの時の子どもたちがまっすぐに生き、成長してくれることです。
来月末、
もう1度、●●●県△△△市に行こうと計画をしています。
そうしたら、あの時よりも、
少しはあの少年の気持ちが分かるような気がするのです。