『ファーザー』

The Father

 

2020年 イギリス/フランス [97分]
監督:フロリアン・ゼレール

製作:デヴィッド・パーフィット/ジャン=ルイ・リビ/クリストフ・スパドーヌ/サイモン・フレンド

製作総指揮:エロイーズ・スパドーネ/アレッサンドロ・マウチェリ/ローレン・ダーク/オリー・マッデン/ダニエル・バトセック/ティム・ハスラム/ヒューゴ・グランバー/ポール・グラインディ

原作:フロリアン・ゼレール

脚本:クリストファー・ハンプトン/フロリアン・ゼレール

撮影:ベン・スミサード

美術:ピーター・フランシス

衣装:アナ・メアリー/スコット・ロビンズ

編集:ヨルゴス・ランプリノス

音楽:ルドビコ・エイナウディ

キャスト:アンソニー・ホプキンス/オリヴィア・コールマン/マーク・ゲイティス/イモージェン・プーツ/ルーファス・シーウェル/オリヴィア・ウィリアムズ/アイーシャー・ダルカール 他

 

[解説]

名優アンソニー・ホプキンスが認知症の父親役を演じ、「羊たちの沈黙」以来、2度目のアカデミー主演男優賞を受賞した人間ドラマ。日本を含め世界30カ国以上で上演された舞台「Le Pere 父」を基に、老いによる喪失と親子の揺れる絆を、記憶と時間が混迷していく父親の視点から描き出す。ロンドンで独り暮らしを送る81歳のアンソニーは認知症により記憶が薄れ始めていたが、娘のアンが手配した介護人を拒否してしまう。そんな折、アンソニーはアンから、新しい恋人とパリで暮らすと告げられる。しかしアンソニーの自宅には、アンと結婚して10年以上になるという見知らぬ男が現れ、ここは自分とアンの家だと主張。そしてアンソニーにはもう1人の娘ルーシーがいたはずだが、その姿はない。現実と幻想の境界が曖昧になっていく中、アンソニーはある真実にたどり着く。アン役に「女王陛下のお気に入り」のオリヴィア・コールマン。原作者フロリアン・ゼレールが自らメガホンをとり、「危険な関係」の脚本家クリストファー・ハンプトンとゼレール監督が共同脚本を手がけた。第93回アカデミー賞で作品賞、主演男優賞、助演女優賞など計6部門にノミネート。ホプキンスの主演男優賞のほか、脚色賞を受賞した。

 

 これは誰の身にも起こり得る、老いと認知機能の低下を、名優の素晴らしい演技で語る叙情詩であり、SF要素?も加えた心理系ホラーと言える部分があって、考えさせられることが多々ありました。

 それだけ現代人は精神的に不安定だとも言えますが、ただいま現在健常だと思っていたら、急に倒れて立てなくなったりは、まま、あることかも知れません。(謎笑)

 

 介護の大変さは、家族のことでよ~く理解していますが、実際近しい場合には介護人のメンタルが危うくなるんで、覚悟も必要だし、何よりご本人のことを考えるようにすれば寄り添えるものです。

 「こんなことも出来なくなった」と嘆くより「まだこんなことが出来ている」と思うことなんじゃないか、と思うんですよね。

 

●登場人物

アンソニー♂:認知症老人

アン♀:娘

ローラ♀:新介護人

ポール♂:アンの元夫

サライ医師♀:

 

 アンソニーには、一人娘のアンしかおらず、前夫と別れて、新しい恋人とのパリ暮らしを目指しており、前夫ポールは実際にはそこには居らず、アンとは別れて五年というのが現実。「画家の妹ルーシー」自体、アンソニーが見たり感じたりしている"リアルな幻"の筈ですから、この辺りの描写が上手すぎる芝居と相まって、観客を戸惑わせます。

 

 圧巻はラストシーンに凝縮されているように思います。ある老健施設の介護人にアンソニーは自分の母親の話しを始め、母に見舞いに来てほしいと言って、身を丸くしました。アンソニーは子供のようにしゃくりあげていました。

 あのアンソニー・ホプキンスがですよ、泣きじゃくる幼児になってしまうんです(驚)。

 

 介護人はまるで母親のように優しく穏やかに「着替えて外に散歩に行きましょう」とアンソニーに語りかけ、窓の外には晴天の中、青々とした木々の葉が風に吹かれて優しく揺れていました。