『あなたを、想う。』

念念/ Murmur of the Hearts

 

2015年 台湾/香港 [119分]
監督:シルビア・チャン

脚本シルビア・チャン/蔭山征彦

撮影:リョン・ミンカイ

キャスト:イザベラ・リョン/ジョセフ・チャン/クー・ユールン/アンジェリカ・リー 他

 

[解説]

台湾の女優で監督としても数々の作品に携わってきたシルビア・チャンがメガホンをとり、3人の若者の交錯する過去と現在を描いたドラマ。台東の沖にある緑島で生まれたユーナンとユーメイ兄妹。母は息子と夫を島に残し、幼いユーメイを連れて台北へと去ったが、ほどなくして他界した。月日が流れ、駆け出しの画家として台北に暮らすユーメイは、家族の仲を引き裂いた母親への怒りを抱えながら生きている。ユーメイはボクサーである恋人ヨンシャンに妊娠したことを告げられずにいた。ヨンシャンは網膜剥離であることを隠して試合に臨み、コーチから選手証を取り上げられて途方に暮れる。台東で旅行ガイドとして忙しく働く兄のユーナンは、孤独の中で過去を思う日々を送っている。ある夜、ユーナンは台風による足止めで立ち寄った店で遭遇したのは、あまりもせつない幻影だった。台湾で活躍する俳優・蔭山征彦がチャンとともに脚本を手がけた。2015年・第16回東京フィルメックスでは「念念」のタイトルで特別招待作品として上映。

(eiga.com)

 

 母は海であり揺蕩う波でしょうか。総てを子らに注ぎ、慈しみ、そして護る存在なのです。

 幼い日、兄と妹は毎晩同じ話の続きを聴きます。食堂を経営している一家には、現実と理想が違うのでしょう。父は長男に実利をもとめ、絵の才能のある妹を連れ母親は出て行きます。

 "緑島"の父親のところに残った兄のユーナンと、母親と一緒に台北に移り住んだ妹のユーメイお互いが子供の時に母親と過ごしていた仲睦まじい時と大人になってからの母親に対する思いの対比が主題です。

 

 幼いとき母と磯辺で小魚を捕らえ、家に帰るときに、それはそっと海に返すものだと教えられた、共通の記憶によって繋がっている兄妹のユーナン(クー・ユールン)ユーメイ(イザベラ・リョン)の持つ優しさは、根が一緒なんですね。

 別の道は、夫と母親(リー・シンジエ)の心のすれ違いによって始まり、母は幼いユーメイだけを連れて台北に行ってしまいます。

 

●登場人物

ユーメイ♀:新進の画家

ヨンシャン♂:網膜剥離のボクサー

ユーナン♂:忙しいツアーガイド

母♀:等しく愛情を注ぐ

 

 成長したユーナンは過去を引きずりながらも、台東で旅行ガイドとして仕事に明け暮れ、一方、画家になったユーメイは家族を引き裂いたまま亡くなった母親への怒りを抱えていて、それが作風に顕れて、一定の評価を持ってはいます。

  恋人のヨンシャンは、プロボクサー志望で、あと一歩でチャンスを逃し続けるに加え網膜剥離の可能性と苛立ちに、ついユーメイに当たり、ふたりの関係に先行き不安を感じています。この辺りのギクシャクは、やがて妊娠→葛藤→和解へと、やはり彼の側の父との海釣りの想い出を通した普遍的な展開です。

 

 全体的に"海と家族"に拘ったストーリーのようですので、潮溜まりの小魚をおうち(海)に返すのと磯釣りのキャッチ&リリースは意図的にリンクさせています。

 

 母の愛情は公平ではあっても、よほどの甘えっこでない限りその人が成長したあとになって気が付くもんです。だからユーメイも作品パワーをそそぐに足る愛情を確かめるために、出産立ち会い→(決断)結婚へと歩を進めるメインの展開に、男たちの記憶の綾織りが加わり、絵本サイン会での、兄妹の静かな再会シーンでそっと結んでいます。