『ブラックブック』
Zwartboek
2006年 オランダ/ドイツ/イギリス/ベルギー [144分]
監督:ポール・バーホーベン
撮影:カール・ウォルター・リンデンローブ
音楽:アン・ダッドリー
キャスト:カリス・ファン・ハウテン/トム・ホフマン/セバスチャン・コッホ/ハリナ・ライン/デレク・デ・リント/ピーター・ブロック/クリスチャン・ベルケル/ワルデマー・コブス/ドルフ・デ・ブリーズ/ディアーナ・ドーベルマン 他
[解説]
「氷の微笑」の鬼才ポール・バーホーベン監督が、23年ぶりに故郷のオランダでメガホンを取ったサスペンスドラマ。1944年、ナチス・ドイツ占領下のオランダ。ユダヤ人の女性歌手ラヘルは、オランダ南部への逃亡中に、何者かの裏切りによって家族をドイツ兵に殺されてしまう。復讐を胸に誓った彼女は、名前をエリスと変えてレジスタンスに身を投じる。彼女はスパイとしてドイツ将校ムンツェに近づき、彼の愛人になるが……。(eiga.com)
オランダ出身のポール・バーホーベン監督が、第二次大戦末期の、ナチス占領下のオランダで、ひっそりと隠れ住むユダヤ人女性の命運を通して描く、重厚な戦争ドラマです。ヒロインラヘル・シュタインは戦前は歌手で、裕福なユダヤ人家庭で育っているため家族も隠れ住み、戦争に翻弄されている立場ですが、機知を働かせあるいは敵のような敵/味方のような敵/敵のような味方と様々な立場の人々との化学反応で辛さと涙に耐えてゆく、見応えのある作品です。さらっとレジスタンスに協力してスパイ活動もすんなりこなしてしまうという武勇伝も、ナチスの蛮行が動機となります。
●登場人物
・ラヘル・シュタイン♀:ユダヤ人女性。戦前は歌手
・ルートヴィヒ・ムンツェ♂:親衛隊大尉/諜報部のトップ
・ハンス・アッカーマンス♂:レジスタンス/元医師
・ロニー♀:フランケンの愛人
・ギュンター・フランケン♂:ナチス親衛隊中尉
・カウトナー♂:ドイツ軍大将
・公証人スマール♂:ラヘルの父親の旧友
・ヘルペン・カイパース♂:レジスタンスの年長リーダー
・ファン・ハイン♂:ユダヤ人擁護派のオランダ人警察官
・ロブ♂:ラヘルを助けるユダヤ人青年
当時のオランダはナチスドイツの占領下にあったため一家は父の友人でもある公証人スマールやファン・ハインの協力で国外逃亡の手筈を整えますが、逃亡途中に親衛隊のギュンター・フランケンの追手に一家もろとも射殺されてしまいます。
オランダ人同士もナチスに従ったりレジスタンスの組織に加わったりの、それぞれの立場でより有利な行動を取ろうとするから、情報もどこで漏れているかなどは判らないわけで、思わぬ伏兵に裏切られて煮湯を飲まされたりも、多くあったのではないかと思います。戦局は動いていて連合国軍やソ連赤軍の動きにも影響され、処刑されたりの動的な処分が、今日と明日とで正反対「勝てば官軍」のような都合よい日和見は、弱い立場の人間はつい選ぶものでしょう。
辛くも生き延びたラヘルは、レジスタンスと繋がりを作り、まるで女スパイのようにナチスの親衛隊将校ルートヴィヒ・ムンツェを切り崩しますが、同じ将校同士でも正反対の意見を持ち、しかも家族の仇敵でもあるギュンター・フランケンに出会します。ヒトラー総統の誕生日のパーティでフランケンの伴奏とデュオで歌うという皮肉な場面や、フランケンの愛人である気さくで明るいロニーとも出会います。暗躍するスマールやファン・ハイン、医師でもあるハンス・アッカーマンスも同様に危ない橋を渡っているのかもしれず、観客もいよいよ誰が敵なのか、裏切るかの二転三転が続きます。
ここらへんの巧妙で入り組んだ脚本/演出はやはりものすごく魅せる映画です。終戦のごたごたに死者の財産を持ち逃げしようとするギュンター・フランケン、ユダヤ人というだけで立場を失ったヒロインに掌返しでリンチしうる一般民衆や意外な人間に殺されそうなときに役に立つチョコレート。
いやはや、これは隠れた傑作と言って良いのでは。エンドロール最後の歌曲もしっとりして素晴らしかったです。
戦争という怪物は一体何か、人間の本質は何かという問いかけ。正当性はともかくどんな危機回避も現実にはアリなんだということを考えさせられました。
