『レ・ミゼラブル』

Les miserables

 

2019年 フランス [104分]
監督:ラジ・リ

脚本:ラジ・リ/ジョルダーノ・ジェデルリーニ/アレクシス・マネンティ

撮影:ジュリアン・プパール

編集:フローラ・ボルピエール

音楽:ピンク・ノイズ

キャスト:ダミアン・ボナール/アレクシス・マネンティ/ジェブリル・ゾンガ/イッサ・ペリカ/アル=ハサン・リ/スティーブ・ティアンチュー/ジャンヌ・バリバール/アルマミ・カヌーテ/ニザール・ベンファトゥマ 他

 

[解説]

ビクトル・ユゴーの小説「レ・ミゼラブル」で知られ、現在は犯罪多発地区の一部となっているパリ郊外のモンフェルメイユを舞台に、現代社会が抱えている闇をリアルに描いたドラマ。モンフェルメイユ出身で現在もその地に暮らすラジ・リの初長編監督作品で、2019年・第72回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞。第92回アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートもされた。パリ郊外に位置するモンフェルメイユの警察署。地方出身のステファンが犯罪防止班に新しく加わることとなった。知的で自制心のあるステファンは、未成年に対して粗暴な言動をとる気性の荒いクリス、警官である自分の力を信じて疑わないグワダとともにパトロールを開始する。そんな中、ステファンたちは複数のグループが緊張関係にあることを察知するが、イッサという名の少年が引き起こした些細な出来事から、事態は取り返しのつかない大きな騒動へと発展してしまう。(eiga.com)

 

 ちょっと評判通りピリピリ来る作品でした。移民/多民族/貧困/薬物/暴力など多くを抱えるパリ郊外のモンフェルメイユ警察に転属してきたステファン・ルイスの目を通して、民族のムラ社会の対立や軋轢、人々、特に少年たちの心に刷り込まれた危機感と、同族意識爆発のキッカケになった事件の顛末がサスペンスフルに描かれています。

 

●登場人物

ステファン♂:BACに転属

クリス♂:班長/狡智に長けるゲス警官

グワダ♂:地元居住の警官/やらかす

イッサ♂:動物誘拐癖少年

バズ♂:ドローン盗撮少年

"市長"♂:マーケットや団地を仕切る

ジョジョ♂:市長弟/知障

ゾロ♂:ロマ人サーカス元締/ライオン使い

サラー♂:ムスリム/料理店

シャンディエ♀:警察本部長

 

 この映画いろいろ入っているので、読み取りが難しいけれど面白いですね。移民や宗教や民族の文化のあれこれ。フランスの下層社会の現実。警察官の威力武装と落差ある家庭人に戻る日常などが印象的。

 

 知的で自制心のあるステファンは、上から目線で高圧的な班長クリスと、自信過剰傾向の同僚グワダと共に街をパトロールします。街を流しながら見せられる人々はなかなか手強い猛者揃い。クリスたちが身につけた舐められない警察官としてのスキルが、彼ら自身の破滅に繋がってゆくんですね。もちろんこういう街でハードに生きてゆくヤンチャな少年たち一人一人には微々たる力しかなくとも、それぞれにこの街で大人たちや暴力に負けない知恵としての団結力が育ってゆくのだろうと思います。

 

 映画のオープニング。ワールドカップの応援と歓喜のるつぼには、現実の生活のやるせなさを発散し、想いを一つにしようという勢いと、通りを埋め尽くす群衆の圧倒的で何か不穏な空気が現れているように感じます。

 

 この街に興行に来たロマ人のサーカスから仔ライオンが拐われる事件が発生します。宗教的な信条のあるアラビア人は「獅子は民族の誇りの象徴だから、檻に閉じ込めるな」と言い、緊迫状態にあったギャングたちはエスカレートし、不穏な空気になってしまいます。

 しかしライオンを拐ったのはギャングのメンバーではなく、動物を連れてきてしまう盗癖を持つをイッサという少年だということでステファンらは、少年イッサの行方を深追いし事件は思いもよらない展開へと進んで行き、偶然バズのドローンで撮られた映像を巡ってのいざこざが取り返しのつかない事態に繋がっていきます。

 ラストシーンの結末はイッサがアフリカの親戚筋に行った時の土産話にしていた「悪人は焼き殺された」という話が繋がってきます。

 

 警察官3人の公用車はパトカーではなくシルヴァーグレイのプジョーのステーションワゴンで、プジョーのシンボルマークはライオンなんですね。フランスにはルノーもシトロエンもあるので、これは偶然ではない気がします。ドローン映像を含めて、狭い団地内の映像は迫力がありました。