『ジョジョ・ラビット』

Jojo Rabbit

 

2019年 アメリカ [109分]
監督:タイカ・ワイティティ

製作:カーシュー・ニール/タイカ・ワイティティ/チェルシー・ウィンスタンリー

製作総指揮:ケヴィン・バン・トンプソン

原作:クリスティン・ルーネンズ

脚本:タイカ・ワイティティ

撮影:ミハイ・マライメア・Jr.

美術:ラ・ヴィンセント

衣装:マイェス・C・ルベオ

編集:トム・イーグルス

音楽:マイケル・ジアッキノ

キャスト:ローマン・グリフィン・デイビス/トーマシン・マッケンジー/タイカ・ワイティティ/レベル・ウィルソン/スティーブン・マーチャント/アルフィーアレン/サム・ロックウェル/スカーレット・ヨハンソン/アーチー・イェーツ/ルークブランドンフィールド/サムヘイガース 他

 

[解説]

「マイティ・ソー バトルロイヤル」のタイカ・ワイティティ監督が第2次世界大戦時のドイツに生きる人びとの姿を、ユーモアを交えて描き、第44回トロント国際映画祭で最高賞の観客賞を受賞した人間ドラマ。第2次世界大戦下のドイツに暮らす10歳のジョジョは、空想上の友だちであるアドルフの助けを借りながら、青少年集団「ヒトラーユーゲント」で、立派な兵士になるために奮闘する毎日を送っていた。しかし、訓練でウサギを殺すことができなかったジョジョは、教官から「ジョジョ・ラビット」という不名誉なあだ名をつけられ、仲間たちからもからかいの対象となってしまう。母親とふたりで暮らすジョジョは、ある日家の片隅に隠された小さな部屋に誰かがいることに気づいてしまう。それは母親がこっそりと匿っていたユダヤ人の少女だった。主人公のジョジョ役をローマン・グリフィン・デイビス、母親役をスカーレット・ヨハンソン、教官のクレツェンドルフ大尉役をサム・ロックウェルがそれぞれ演じ、俳優でもあるワイティティ監督が、ジョジョの空想の友だちであるアドルフ・ヒトラーに扮した。第92回アカデミー賞では作品賞ほか6部門でノミネートされ、脚色賞を受賞した。(eiga.com)

 

 10歳の少年の目を通して描かれるWW-2でドイツが嵌り込んだ戦争の狂気ですね。冒頭ヒトラーに酔う民衆の姿の実写映像が、時代背景をこれ以上無いくらい恐ろしく切り取っていますが、本題に入ると少しコメディ寄りの描き方になっています。

 

10歳の少年のなんとなくの不安は、朝のルーティンとして想像上の相棒"アドルフ"(総統の姿)に檄を飛ばしてもらうことで、ある程度は緩和されるのだと言えるでしょうか。時代を限らずとも例えば企業戦士が、今日一日の始まりに何某かの期待と希望を持って、不安で仕方がない自分の小さな魂を奮い立たせるのと同じ行為と言えるでしょう。

 

●登場人物

ジョジョ♂:10歳の多感な少年:ナチスに憧れている。

エルサ♀:2階の屋根裏に潜む17歳のユダヤ娘

アドルフ♂:ジョジョの心の支え:総統の化身

クレンツェンドルフ大尉♂:ヒトラーユーゲントの指導教官

ミス・ラーム♀:ヒトラーユーゲントの指導教官

フィンケル♂:クレンツェンドルフの部下

ディエルツ大尉♂:酷薄な笑顔のゲシュタポ将校

ロージー♀:ジョジョの母。反ナチス

ヨーキー♂:ジョジョの同期の少年

 

 ましてや戦争も後期に入ると、世界がドイツに圧力を集中させますから、その気になって教育されたヒトラーユーゲントの子供たちの心に、大きなストレスとなって行く訳でしょう。自信なんてないのに強くあれ正しくあれ、と吹き込まれるんですから、平時の子供の無邪気に蓋を掛けさせるような物で、いっぱい一杯でキョドッた目になるのも可哀想だけど仕方が無いことでしょうか。

 

 「散るものを育てる」アルカイダもISISも年端も行かない子供を酷薄にも戦力たらんとする悪魔の所業。そのいかれた思想の恐らく先鞭をつけたのがナチスの下部組織としての機能を訓練するヒトラーユーゲントの役割だったのでしょう。クレンツェンドルフ大尉ミス・ラームフィンケルの無茶なプログラムの進行はコミカルゆえに教育の危うさを伝えます。

 

 洗脳教育は独裁国家やテロリストの偽りの勇気と大義を植え付けるものですから、全生徒に忠誠と勇気の象徴としての短剣を与えられ従えば褒美、逆らえば独房的な体罰で有無を言わせない恐ろしい思想です。ですから「のほほん」とした弱気な少年ジョジョを描くことで、映画的にはオブラートに包まれた強い毒となる訳ですね。簡単にいうと"笑えない冗談"の一面が垣間見れます。子供の遊ぶ街の広場に絞首台があり反逆者を見せしめに展示している光景は、語り口とは正反対の恐ろしい描写だと言えるでしょう。

 

 ジョジョの母ロージーは先進的な方のようで、従って自分で考えて行動しますから、反権力反ナチスになるのも頷けます。服装、物腰特にこの映画で象徴的に扱っているのは靴と靴紐です。今の目にもお洒落なツートーンが印象的で、効果的に演出されています。それは"自分で靴紐を結べる"=人格としての自立を意味するでしょう。そういう母が自分たち家族が喪ったジョジョの姉インゲの面影をユダヤ人の少女エルサに重ね匿うのも当然だと思います。

 

 意外に硬派な内容をたっぷり含んだコメディを堪能できる、心に残る作品でした。やはりジョジョのキョドッた眼が、大変多くのことを語りかけてくれました。エルサも美少女で素敵←そこか?