『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢

L'Incroyable histoire du Facteur Cheval

 

2018年 フランス [105分]
監督:ニルス・タベルニエ

製作:アレクサンドラ・フェシュネル/フランク・ミルサン

脚本:ファニー・デマール/ニルス・タベルニエ/ロラン・ベルトーニ

撮影:ヴァンサン・ガロ

美術:ジェレミー・デュシエ・・リニョル

衣装:ティエリー・ドゥレトル

音楽 :バチスト・コルー/ピエール・コルー

キャスト:ジャック・ガンブラン/レティシア・カスタ/ベルナー・ル・コク/フローレンストマシン/ナターシャリンディンガー/ゼリー・リクソン/エリックサバン/オレリアンウィイク 他

 

[解説]

フランスに実在する建築物で、ひとりの郵便配達員の男が33年もの歳月をかけ、たった1人で完成させた手作りの宮殿「シュバルの理想宮」の実話を映画化したヒューマンドラマ。フランス南東部の自然豊かな田舎町。寡黙で空想好きの郵便配達員シュバルは、変わった形の石につまずいたことをきっかけに、愛娘アリスのために「おとぎの国の宮殿」を建てることを思いつく。さまざまな苦境に直面し、周囲の人々にバカにされながらも、来る日も来る日もたった1人で石を運んでは積み上げ続けるシュヴァル。そんな彼に、過酷な運命が容赦なく襲いかかる。「グレート デイズ! 夢に挑んだ父と子」の監督ニルス・タベルニエと主演ジャック・ガンブランが再タッグを組み、「ゲンズブールと女たち」のレティシア・カスタが主人公の妻役を演じる。ほぼ全編を通し、現存する理想宮で撮影を敢行した。「フランス映画祭2019横浜」(19年6月20~23日)では、「アイディアル・パレス シュヴァルの理想宮(仮題)」のタイトルで上映。(eiga.com)

 

情熱のある、まるで"素人ガウディ"のような主人公シュヴァル(ジャック・ガンブラン)、勤勉寡黙な郵便配達夫の一生涯を掛けたこの気の遠くなるような壮大な"宮殿"建設の実話を、映画は実に見事に、淡々と描いていきます。

 

妻を亡くし、一人息子のシリルを里子に預けなければならない、生真面目な郵便配達夫の心を支えたのは、配達の途中グラス2杯の水を飲ませてくれた、未亡人のフィロメール(レティシア・カスタ)で、真摯で無口で粘り強いシュヴァルの中身を感じ取ってくれた訳で二人は支え合う関係になりす。故郷のドローム県内を一日に10時間、山河を眺めつつ徒歩で郵便を配達するのは、苦しいけれども、その自然の美しさに包まれている歓びを感じる事ができるから、充実の時間には違いないでしょう。人生だから山あり谷あり、娘アリスが生まれ、ある日躓いて転落した時に見つけた、不思議な形の石。それがきっかけとなります。この辺りの地質に、たぶん石灰岩の地層があり河の流れに浸食され層状の不思議な造形。

 

絵葉書などで見るタージマハールやその他の宮殿建築に憧れていたシュヴァルは、その石が、きっと宮殿の一部として自分に与えられたものだ、と感じるのでした。つまりその宮殿は愛する娘アリスのために造られるものに違いないと確信するんですね。

 

真面目一方で、酒やギャンブルや色事には無縁なシュヴァルが、時折夕陽を見送ったり風を感じている、静かな描写が心地よいのです。寡黙は多弁だなと思います。そして、シュヴァルの生き甲斐だったアリスまで失うと、今度は宮殿ではなく鎮魂のための霊廟としての理想宮へと、シュヴァルの想いは静かに、力を持つのです。そのときの、石灰岩の暗い淀みに失意のまま揺蕩うシュヴァルの姿が眼に残ります。

 

こうして33年、93,000時間をかけて完成した"理想宮"の姿は、壮大、複雑、精緻、稚拙、素朴、大胆が、渾然一体となって、見るものを圧倒します。ほんとスゴい。

 

こういう強い意志で何かに取り憑かれて、自分の夢や憧れに近づこうとする、いわゆるパラノイア的な方って洋の東西を問わず一定数いるようです。日本のTVでも爺さんが素晴らしい日本庭園をコツコツとというのがありましたし、城を建てた建築会社の親方というのも、たしかあったと思います。まぁそれらは、下手うまが魅力ではありますが(笑)。