『４x４ 殺人四駆』
4x4
2018年 アルゼンチン/スペイン [92分]
監督:マリアノ･コーン
製作:アクセル･クシェバツキー/ガストン･ドゥプラット
脚本:マリアノ･コーン/ガストン･ドゥプラット
撮影:キコ･デ･ラ･リカ
音楽:ダンテ･スピネッタ
編集:ダビ･カラルト/エレナ･ルイス
キャスト:ピーター･ランサーニ/ダディ･ブリエバ/ルイス･ブランドーニ/ノエリア･カスターノ/グスタボ･ロドリゲス 他
[解説]
車上荒らしで押し入った車に閉じ込められた男を待ち受ける運命を描いたシチュエーションスリラー。車上荒らしのシロは住宅街に停まっていた車に押し入りカーステレオを盗むが、外に出ようとしてもドアが開かないことに気づく。外から中は見えず、防弾ガラスで傷ひとつつかず、防音仕様で声も一切届かない。完全に車の中に閉じ込められてしまった彼は、水も食料もなく徐々に衰弱していく。そんなシロのもとに突然、車のオーナーであるエンリケから車中の電話が掛かってくる。エンリケは遠隔操作で車を操り、シロを弄ぶかのように苦しめていく。やがて、エンリケがシロの前に姿を現すが……。シロを「エル･クラン」のピーター･ランサーニ、エンリケを「笑う故郷」のダディ･ブリエバがそれぞれ演じる。監督は「ル･コルビュジエの家」のマリアノ･コーン。新宿シネマカリテの特集企画「カリコレ2019/カリテ･ファンタスティック！シネマコレクション2019」（19･7/13～8/9）上映作品。(eiga.com)
冒頭、やけに厳重な防犯ハウス、有刺鉄線、監視カメラ、、警戒厳重な住宅地の、その塀の外に路駐している高級4駆SUV。自警団活動をしているらしいその地区に、ピンクＴシャツの兄さんがやって来て、コン！とテニスボールでドアハンドルぶっ叩いただけでクルマに乗り込め、手際よく内装やら外しまくってカーステレオだかナビだかをもぎ取れるスキルの車泥兄さんなのに、持ち主が遠隔操作しただけで押せども引けどもロックが外れないっちゅう、なんだか都合のよすぎる設定に、ふ～んと首を傾けます。
クルマに閉じ込められる映画って、結構あって、憶えてるのは近未来の余計なハイテクAiカーに翻弄されるヤンママの『ロックダウン』とかのアクシデント系と『リムジン』という何者かの悪意による懲罰ものなんかありましたが、本作は後者のタイプでしかも犯罪誘導のためになんか路駐で罠仕掛けた、私怨による閉じ込めです。
一般的には自警団活動なんて違法の国が多いでしょうが、この国(アルゼンチンかスペインか)の条例は違うのかもしれないですね。路駐の車をホイホイにするのは、その国の犯罪率とかがあるのかも。ちなみにこのシロ君が閉じ込められている車を盗もうとした別口の兄さんは、周辺住民にボッコボコにされ、パトカー呼ばれ、住民の悪態は警察の無能に向けられたりするんですね。一般人怒らすとコワッ(笑)
何しろこの車の持ち主はここ最近28回窃盗被害で「お前が29回目」って、それで罠を仕掛けて間抜けな車上ねらいの兄さんを待っているという、いくらなんでも狂いめくってますねー。被害を防ぐんだったら蔵(しま)っときゃ良いのですから、こういう罠って、例えば交通取締りのまさに「ネズミ取り」みたいなマッチポンプ。まぁそれ言ってると始まりませんが、前半はそういう気分と車上荒らしシロ君のぐだぐだっぷりです。
ドアの内装ベリベリ剥がしたところで、この四駆はあり得ない曲者特注車。そのうち暑くなって喉は乾くわ、防弾ガラスを銃弾で射抜こうとし、跳弾で負傷したり、嫌がらせにシッコした後部座席で開かないドアを蹴っ飛ばす羽目になるとは思ってません。みっともねー。
中盤からは多少展開がアヤシク(笑)それはモバイル機能を使い、外部から閉じ込め犯の産婦人科医エンリケ･フェッラーリの手で一方的通話が始められ、シロ君はわからない相手に一挙手一投足、筒抜けに見られていたらしいことを思い知り、精神的にグイグイ追い詰められる羽目に。犯罪歴まで調べられ突き付けられちまいます。
シロ君にしてみれば、金持ちをターゲットにする理由は「こんなスカしたクルマの金持ち、どうせ貧乏な俺たちから搾取してるに決まってる」っておなじみの犯罪者の自己正当化理論を採用していたのだから、言ってみればどんな目に遭っていても観客は「ざまぁ」なのだけれど、暑さと飢えとで朦朧としたシロ君に聴き取れない医師の呟き。それは・・・。
じつはフェッラーリ医師も自らは逃れられない運命を抱えていたからこそ、何かを変えたいと手のこんだトラップカーをホイホイにしてたのです。終盤の野次馬たちの本音が、政治不安や治安の悪さに表面化している、この街の輪郭を語っているように感じました。
オーラスのコオロギの運命は、なにを例えているのでしょうか？