『108時間』
No dormiras
 
2018年 アルゼンチン/スペイン/ウルグアイ [107分]
監督:グスタボ・エルナンデス
製作:パブロ・ボッシ/フアン・パブロ・ブスカリーニ
製作総指揮:マルタ・エステバン/パブロ・ボッシ
脚本:フマ・フォーデ
撮影:ギレルモ・ニエト
編集:パブロ・スマラーガ
音楽:アルフォンソ・ゴンサレス・アギラル
キャスト:ベレン・ルエダ/エヴァ・デ・ドミニシ/ナタリア・デ・モリーナ/ヘルマン・パラシオス/フアン・マヌエル/ギレラ・マリア/アルフォンソ・ロッソ 他
 
[解説]
役作りのため108時間起き続けた女優を待ち受ける恐怖を描いたサスペンススリラー。ある劇団が新作舞台の準備をするため、現在は廃屋となっている精神病院にやって来る。その舞台は昔の前衛的な演劇グループが創作したもので、108時間眠らずにいた女性の悲劇を描くものだった。演出家アルマは役者たちに実際に眠らずに過ごさせ、登場人物の心理に近づくよう求める。主演の座を狙うビアンカはライバルたちとともに不眠に挑むが、幻覚や不可解な出来事が続き心身ともに追い詰められていく。さらに、演じる役柄の女性について調べてみると、108時間起き続けた直後に異常をきたしていたことが判明。恐怖を感じ諦めようとするビアンカだったが、目標の108時間はすぐそこまで迫っていた。監督は、長編デビュー作のワンショットPOVスリラー「SHOT ショット」が「サイレント・ハウス」のタイトルでハリウッドリメイクされた新鋭グスタボ・エルナンデス。ヒューマントラストシネマ渋谷&シネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2019」上映作品。(eiga.com)
 
全ての生物にとってまず第一位なのは、生存に関する機能であって、多くの動物たちはエマージェンシー対応にはちゃんと活動できるのは必須、瞬時に目が覚めなければ命に関わりますから、瞬間ウトウトの繰り返しのような睡眠もあるらしいです。私たち人類は脳の発達が著しく、機能的に余剰が多いので、纏まった睡眠が必要な生き物です。ところが睡眠中の脳の血流量は変わらないということで、睡眠については科学的に解明されきっていないので何とも言えない訳ですが、昼間見たもの体験したことの「まとめ」のような機能が[夢]となるという説があり、大変興味深いものです。脳の中で起こることは、この映画のようなことが絶対ないと言えない、未解明の世界と思っても良いんでしょうね。
 
さてこちらの映画は、そういった要素をうまく使って[映画的に]よく練られた不条理サスペンスで、ホラー的な怖さと少々の威かしも取り入れた独特の世界です。ただし登場人物全員、(ヒロインのビアンカによって精神科の施設に入院させられるパパ以外は)イカれているように思われます(笑)。
 
前衛劇というくくりで"断眠"実験を試みる、アルマが構築した108時間寝ずの役者たちが醸す、妄想、錯覚、錯乱、果ては憑依までを虚構の世界に取り込もうといった芝居で、全ての元凶は、アルマ(ベレン・ルエダ)という前衛演出家の実験的研究のようです。
ビアンカ(エヴァ・デ・ドミニシ)はショービズで名をあげたい名誉欲が幼い頃からあって、そのせいか演技力のレベルが高く、高名な前衛演出家の芝居の主役に誘われれば、それは有頂天になろうってもんですね。但しそれが全て[仕込み]で、巧妙なドッキリに近いもので、アルマの指導の元じつは出演者全員がリミットの108時間の"断眠"を強いられ互いに見張り緊急時にはホイッスルでメンバーを呼び寄せたりします。アルマと助手のクラッソ以外は眠っていないということで、究極の監禁のようなものです。そして演劇でもあるので、知らされないうちに、本番が始まっているし、なりきること=幻影に憑依されることという無茶な要求で、きっと出演者はとっくにおかしくなっているんだと思われます。
 
さらに舞台は閉鎖された元精神病院という不気味さもあり、蟠った怨念が影響し芝居自体を究極の[リアル=死]へとシフトしてしまい、アルマさえ考え及ばなかった結末に到達します。
 
暗示にかかっているうちはまだ良いのですが、この演出家の極端な理論と実験を恍惚とした表情で見つめる、すでに狂った眼が怖ろしいし、最初の実験演劇で老婆サブリナに憑依された女優マーリーナがじつはビアンカを導く案内者として、アルマによって機能させられ、危うい目に遭わされるという流れです。
 
ヒロインが既に錯乱や混乱の中にあっても、いい芝居を目指すというプロ根性が、さらに危ない目に陥るループのようで、前衛芸術なんて嫌いだって思っちゃいます。まぁそういった点では訳の分からない恐怖はズンズン迫るし、印象に残る映画かなと思います。細かいことではチョークを使った結界のような仕込みはありますし、サブリミナルのようなショットを脳内編集出来るかもしれません。
 
とは言えこの映画の監督さんも、役者に容赦しません。相当ヤバい人だったら怖さ倍増ってことですよね。全く逆に4日半眠るのは出来るんですが、それだと違う時代に目覚めたりして、それはそれで怖いかも(笑)。