『ザ・ウォール』

The Wall

2017年 アメリカ [ 90分]
監督:ダグ・リーマン
製作:デビッド・バーティス
製作総指揮:レイ・アンジェリク
脚本:ドウェイン・ウォーレル
撮影:ロマン・バシャノフ
美術:ジェフ・マン
衣装:シンディ・エバンス
編集:ジュリア・ブロッシュ
出演:アーロン・テイラー=ジョンソン/ジョン・シナ/ライト・ナクリ  他
 
[解説]
イラク戦争を舞台にスナイパーに狙われたアメリカ兵の極限下の戦いを描いた、「オール・ユー・ニード・イズ・キル」のダグ・リーマン監督によるサバイバルスリラー。2007年、イラクの荒廃した村。アメリカ兵のアイザックとマシューズは、瓦礫の中に残る大きな壁に潜む敵を狙っていたが、5時間まったく動きがないため、マシューズが様子を見るために壁に近づいたところ、想定外の場所から銃撃されてしまう。援護に向かったアイザックも銃弾に狙われ、なんとか壁の背後に退避したものの、まったく身動きが取れなくなってしまった。その時、仲間を名乗る謎の男から無線が入り、その声にかすかな訛りを聞き分けたアイザックは、男の正体を確認しようとするが……。主人公のアイザック役に「GODZILLA ゴジラ」「キック・アス」のアーロン・テイラー=ジョンソン。マシューズ役をWWEのレスラーでもあるジョン・シナが演じる。(©eiga.com)
 
この映画の緊迫感はすごいですね。数多のホラー映画で使われる事かも知れませんが、相手の正体や姿が見えないことと、反対にこちらは丸見えで、いつ狙撃されるかも分からないという恐怖感に圧倒されるアイザック軍曹とマシューズ軍曹。配役に名前がはっきりあるのはこの二人、対する敵は伝説のスナイパー"シューバ"(ではないかと、主人公は思います)の無線から届く声だけ。1500m以上の射程で撃ち損じがないというバケモノです。主人公がシューバと思う理由は、正確に頭を撃ち抜かれた兵士とパイプラインの作業員や、無線機のアンテナや水のボトルまで撃たれていたからで、しかも相手の位置が見つからない焦りがあります。
 
この力関係は圧倒的に不利で、しかも相手は敵と見破られてもなお「話をしたいだけだ」と、余裕で無線の会話をやめません。アイザックとマシューズがさっき話していたキーワードを会話に挟んだりで力関係は保ちつつ、無線交信が傍受されているのを思い知ります。こういう神経戦術はおそらくそうした戦闘だけでなく、政治や外交、果ては商取引等でも効果があるものです。何しろ相手を自分の掌に転がすことが出来るからです。
 
壁に隠れたまま小さな隙間にターゲットスコープを当て、アイザックは必死で相手の位置を考えます。弾着と銃声のタイムラグ、風向き自分の左足に喰らった銃創の入射角、弾丸の種類…。なんと銃創から取り出した弾丸は、自分たちのと共通のNATO弾で、戦争の皮肉を頭から浴びせかけられます。
 
そして、タイトルの"ザ・ウォール"は、イラクへの復興支援と公称してアメリカが建てていた小学校の残骸で、シューバからみれば敵を狙い撃ちするために役立つ、格好の目標物と言えます。配役が少なくて、ほぼワンシチュエーションで、おまけに心理劇と来れば、舞台演劇に翻案しても行けそうな映画でした。充分戦争の虚しさや矛盾を表現している作品と言えます。