『母と暮らせば』

2015年 日本 [130分]
監督:山田洋次
脚本:山田洋次/平松恵美子
企画:井上麻矢
プロデューサー:榎望
撮影:近森眞史
音楽:坂本龍一
出演:吉永小百合/二宮和也/黒木華/浅野忠信/加藤健一/広岡由里子/本多望結/小林稔侍/辻萬長/橋爪功 他



それは、"過去"であり"現在"であり"未来"を表すとも取れる。投下された原爆の爆心近くで、一瞬で蒸発しただろう浩二(二宮和也)の無念。いや、それすら感じず、何が起きたのかわからないまま数字になってしまった彼を、三年探し歩いた母・伸子(吉永小百合)。最愛という置き換えられない想いを抱え、まだまだ長いこの先を、その"最愛"に近いものを見付け、たぶん"幸せにならなければならない"許嫁・町子(黒木華)の三つの立ち位置だ。

母・伸子は助産婦として何千という新しい命を取り上げ、命の尊さの中心に居るのに、長男は戦場で次男の浩二を原爆で相次いで喪うという無情感のただ中に放り込まれ、生きる気力さえ喪いつつある。そういう心の状態であれば幽霊とかでなく、端から見れば"独り言"の中で、溌剌としていた浩二とのやり取りを、事あるごとに思い出し反芻するのは、哀れで悲しいだけではなく、母親として満たされない想いの解放だと思える。

ラスト近くの光の中へ息子と連れ立って行く"死"は、ナガサキと平和を祈るクリスチャンたちへの、山田洋次監督からの優しさのプレゼントだろう。個人的には宗教絵画的過ぎるので、好きではないが。

俳優は、二宮が素晴らしいし、黒木華も良い仕事をした。『ふしぎな岬の物語』でふと湧いた吉永小百合○○○○役者疑惑は、本作では目立たなかった(笑)。相手役との関係性が引き出す"場の力"それと脚本と演出のなせる技かと思う。130分は少し疲れるが。