東京都同情塔
九段 理江 (著)
新潮社
図書館から借入。2024/1/17刊。
文章の一部にAIを使ったということで話題となった芥川賞受賞作。
計画通り2020年にザハ・ハディド設計の国立競技場で東京オリンピックが開催されたパラレルワールド的な東京が舞台。
その国立競技場に隣接する超高層の刑務所シンパシータワートーキョーの設計を担当することとなる女性設計者・牧名沙羅が主人公。
その刑務所は、入所者への寛容がコンセプトとなっている快適な空間である。
沙羅はそんなコンセプトやカタカナのネーミングに違和感を感じていた。
そんなある日、沙羅と付き合っている15最年下の美青年・拓人がシンパシータワートーキョーのことを、
東京都同情塔とふと名付けてしまう。
テーマは、犯罪者やマイノリティに対する寛容や差別、
それに伴う言葉狩りといったあたりだろうか?
文章の一部にAIを使った、という点に関しては、
それだけのことだけが一人歩きしてしまって誤解を招きそうだが、
作品内でAIを使った言葉の検索の場面があるだけのこと。
それはそれで、ユニークな手法として読めた。
基本的には主人公の沙羅の一人称で進行するのだが、
中盤の長いパートは拓人の一人称で描かれる。
また、外国人ジャーナリストやシンパシータワートーキョーの責任者の文章も大きなパートを占める。
語り手が途中で転向される点や、
文章のフォーマットが複数あるなど、
小説的なトリックがある点で思い出したのが、
吉田修一の小説。
主人公がそれなりに社会的地位のある女性だったり、
相手の男性がハイエンドのファッションブランドの店員。
舞台が東京の都心と言ったあたりも、
吉田修一の初期の作品を思わせる。
ラストが何処か観念的に終わってしまって、
何を言いたいのかボケてしまったのが残念だが、
初期の吉田作品にある都会的でオシャレな雰囲気が好きな人には楽しめる作品だろう。