スカパーで録画鑑賞。
ビデオ『勝利と敗北』
1960年井上梅次監督作品。
川口浩主演、本郷功次郎、若尾文子、山村聰、新珠三千代、野添ひとみ、安部徹出演。
空白となったボクシング日本チャンピオンの座を争うボクサーたちとその愛憎劇、
そして所属ジムの諍いを描いたドラマ。
一時期はかなりの頻度で若尾文子様の作品を放映していただいた日本映画専門チャンネル。
そのほとんどを鑑賞したワシであるが、
久しぶりに文子様出演の未鑑賞作品を放映してくれたのでこの度鑑賞。
当時のプログラムピクチャーとしては長めの114分のカラー作品。
文子様自体はそれほど出番は少なかったものの、
結構見どころの多い作品だった。
空白の日本チャンピオンの座を巡る数人の候補のうち、
中心になるのは生真面目なベテランボクサーの山中(川口)と、
才能はあるが生意気な若手ボクサーの旗(本郷)。
それぞれの恋人役を、若尾文子と野添ひとみが演じる。
一方でボクシングジム会長の役割も大きく描かれる。
主人公の所属する人情家の会長(山村)と、
悪徳会長の(安倍)の対比は、
その後の任侠映画の構造を思わせる。
選手の所属に関して「杯を交わす」などと言うセリフもあるほどだ。
ボクシングを素材とした映画は、
現在に至るまで数多く存在する。
傑作率の高いジャンルであるが、
正直言って本作品は「ボクシング映画」としてのレベルはそれほど期待していなかった。
しかし、予想以上に十分なレベルの作品だった。
若い選手たちの恋愛劇も描かれるのは当然。
しかし、それ以上にドラマティックに描かれたのは、
山村聰演じるジム会長と、
新珠三千代演じる行きつけのバーのママとの恋愛劇。
うーん、大人だなあ。
地位もある分別もある大人の男の弱さを、
暖かく深く、そして粋に受け入れるバーのママ。
良いですねえ。
そして、余談(かな?)かもしれないが、
本作中でボクシングのことを「拳闘」と言うシーンが多かった。
評論家の川本三郎も指摘していた点だったが、
よく聞くと会長の山村聰あたりは「ボクシング」と「拳闘」の使い分けが半々くらいだったようだ。
当時は、専門家は「ボクシング」と言い、
一般人は「拳闘」と言う傾向にあったのかも知れない。
そして、劇中で「健闘を祈る」と言うセリフも2回ほどあった。
ダジャレとしてのセリフではなかったが、「拳闘」との親和性を狙ったのか?
また時代性を感じたのが、
TVの普及問題。
文子様がカフェのTVで恋人の川口の試合を心配しながら観戦している途中で、
チャンネルは切り替えされる。
文子様は、試合の続きを見るために、
街中を彷徨うことになる。
時代を感じさせる、切ないシーンである。
その後の別のシーンで、文子様はボクシングの試合を熱心に見入る。
それを見た他の女性客は、
「そうとうな拳闘気狂いね」と言う。
まあ、今では差別用語としてアウトなセリフではあるが、
思い出したのはもちろん『あしたのジョー』。
丹下段平の「ケンキチ(=拳闘きちがい)」と言うセリフである。
そして本作は、『あしたのジョー』開始の8年前の作品である。
最後に、肝心の文子様について。
1960年と言うことで文子様にとっても最高潮期の作品。
しかし、主人公の清楚な恋人役と言うことで、
期待するほどの活躍は見られなかった。
ネット上でも写真は上がっておらず、
画面撮影で美しいお姿を。