映画、幸福への招待
太田和彦 著
晶文社
グラフィックデザイナーでありながら、
居酒屋探訪や古い日本映画のエッセイで知られる著者の、
映画や名画座への愛着が込められた一冊。
最近は図書館で借りた本が多くて、
返却に追われて購入本をなかなか読み進められないでいた。
いわゆる、積ん読…
さっさと読み終わるだろうと思ったのになあ。
2023/2/1刊。
本書の8割以上を占めるのが、
本書のタイトルと「同じ映画、幸福への招待」と名付けられた章。
そこでは帯にも書かれている様に、
「知られざる日本映画 名作60本」を取り上げる。
名作と言っても、
もちろん『七人の侍』とか『東京物語』と言った、
定番の名作ではない。
むしろ「知られざる」B級映画が中心である。
それらを平均3ページほどの分量で、
コンパクトに解説している。
そこは、本職の映画評論家ではない著者。
古い日本映画への愛情と知識は十分だろうが、
評論というよりエッセイに近いスタンスで筆を進める。
素人っぽい、忌憚のない感想も微笑ましい。
ただ、この60本の選定は微妙。
「知られざる」と言いつつも、
『紅の流れ星』『洲崎パラダイス 赤信号』『おんなは二度生まれる』『独立愚連隊』『地獄門』、
と言ったそれなりの名作も含んでしまっている。
それでも国内外でも評価の高い『地獄門』を酷評しているあたりは痛快であるが。
しかし、それならなぜ『地獄門』を取り上げたのだろうか?
また、本書の特徴はそれぞれの映画を鑑賞した映画館名を記載している。
このブログの映画レビューと同じだ(え?おこがましいって?)。
それは、作品そのものの評論というより、
愛する名画座での鑑賞体験をメインにしているのだろう。
そしてそのほとんどが、
シネマヴェーラ渋谷、神保町シアター、国立映画アーカイブ、ラピュタ阿佐ヶ谷、新文芸坐の5館で鑑賞している。
そのうち国立映画アーカイブ、ラピュタ阿佐ヶ谷の2館は、
咋夏の東京徘徊時に、
わざわざ訪問して映画鑑賞した名画座である。
これは訪問時のラピュタ阿佐ヶ谷。
そんな「同じ映画、幸福への招待」以外のパートは、
著者の長年の映画遍歴をコンパクトにまとめた「私の映画史70年」と、
「銀座と酒場と男と女」という高崎俊夫、のむみちを交えた3人での鼎談となっている。
最後の鼎談など、
居酒屋評論家でもある著者の得意分野であるだけに、
もっと読みたかった。
また「私の映画史70年」の中で、
著者よりはるかに多数の映画を鑑賞している聖人(狂人?)として名前を挙げていたのが、
快楽亭ブラックと、あの小西康陽!
いやはや、畏れ入ります。