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ビデオ『茜色に焼かれる』
2021年石井裕也監督作品。尾野真千子主演、和田庵、片山友希、永瀬正敏出演。
7年前に認知症の老人の運転による事故で夫を失った良子(尾野)。
加害者側から謝罪の言葉もなく、
良子は補償金の受け取りも拒否して、
中学生の息子の純平(和田)と懸命に生きている。
昼は花屋で、夜は風俗店で懸命に働く良子だったが…
尾野真千子の演技と作品自体の評価の高い作品。
石井裕也監督作品は結構劇場で鑑賞しているのだが、
ちょっとしたタイミングのズレ(主にコロナの影響)で本作は見逃していた。
さすが、主演の尾野真千子の圧巻の演技に圧倒された。
そして、予想以上にヘヴィな内容の作品だった。
最近加害者家族の問題を描いた書物『家族が誰かを殺しても』を読んだばかりで、
被害者と加害書の問題は特に突き刺さる。
そして、経済的貧困、セクハラ、風俗店への偏見、いじめ、児童虐待、社会的格差、病苦などの問題が、
これでもかと描かれる。
現代日本の問題点を凝縮した力作である。
ところが、それって違うよな、との思いの連続であった。
主人公の良子を演じた尾野真千子はすごいと思った。
しかし、その行動はどうなんだろう。
7年前に、夫は無残にも「殺された」のである。
それにより、多少は精神に変調を来しても仕方ないだろう。
彼女のおかしな行動を、
その精神状態によるものとまとめてしまえば、
それで終わってしまう。
とにかく、補償金をもらわなかったのは、
彼女の意地だろう。
しかし、それ以上のものではない。
結局、経済駅に困窮し、
風俗店で働かなければいけなくなる。
風俗店が悪いと単純には言えない。
しかし、結果的に息子の純平に悪い影響を与えてしまっている。
他にも、法律的にどうなんだろうと思えるシーンがいくつかあった。
有名な法律事務所が指導に当たっているようなので、
素人のワシには何とも言えないのだが。
例えば、加害者の老人が認知症だったから罪に問われない点。
本人はさておき、
家族の監督責任はないのか?
また、純平をいじめる上級生たちが、
純平のアパートの前で放火してボヤ騒ぎを起こす。
明らかな犯罪だが上級生らが咎められたシーンは一切ない。
それどころか、それにより良子と純平の親子は市営住宅を追い出される。
またあの自転車は、窃盗じゃないのか?
また良子本人の行動に話は戻すが、
偶然出会った中学時代の同級生と色恋沙汰に陥るのだが、
どうも唐突感を感じてしまった。
しかも、その後の展開には呆れてしまった。
そんな良子の「変な人」っぷりを表す仕草として印象に残ったのが、
奇妙な笑みを漏らしながら貧乏ゆすりを繰り返すこと。
これって、同じ石井裕也監督の『町田くんの世界』に登場した、
関水渚演じた女の子の仕草と同じだ。
『町田くんの世界』は大好きな作品で10点献上。
石井裕也監督作品にはコメデイじゃなくてもユーモアを感じさせるものが多いのだが、
本作はユーモアを感じられなかったのが残念。
むしろ不幸の連続(特に風俗店の同僚の女性(片山)のエピソード)で連想したのが、
『ダンサー・イン・ザ・ダーク』。
さすがにそこまで絶望的な作品ではなかったが(笑)。
まとめると「すごい」けど「好きじゃない」作品という感じかな。