まぼろし闇市をゆく 東京裏路地<懐>食紀行

藤木TDC ブラボー川上著
ミリオン出版 平成14年発行

イメージ 1


前回と同様、東京の紀行であるが、1回につき1店の飲食店をコミカルに描く内容。
タイトルにあるように、実際東京で終戦直後に闇市が栄えた界隈に出向き、
その中でも今でも闇市的雰囲気を残す店での飲食を、現場での対話形式で表現。
選ばれたエリアは、新宿、渋谷、新橋などのビッグタウンから、
赤羽、錦糸町、大井町などのちょっとマニアックな街まで。

読み物としての面白さは、今回の10冊の中でも出色の1冊

著者の二人は風俗やAVライターをメインにしつつ、居酒屋関係の雑誌に良く顔を出している。
昭和36、37年生まれと言うことで、丁度オタク=サブカル世代
先述の太田和彦や嵐山光三郎より一回り若い世代である。

テーマが「闇市」と言うことで、著者の二人は戦後の復員兵的なキャラクターになりきって、
闇市的な店を飲み喰いして歩くのである。
そして、こんな感じの文章が続く。
「ムシャムシャ。うん、この貧乏臭い味がうまいよ」

この二人の掛け合いが実に楽しい。
さらに、半数くらいの回で「編集ギャル」なるスタッフも参加。
「え~こんな気持ち悪いもの、食べるんですか?」
「こら!婦女子、喰え!」
若い(?)ギャルの参加にも、二人のオヤジは鼻の下を伸ばすでもなく、
セクハラにいそしむでもなく、あくまでもアナクロな復員兵のキャラクターを崩さないのである。

1軒ずつ、店名も明記しての紀行文であるが、あくまでも「お店の紹介」本ではない。
純粋な、読み物である。
例えばタイトルの1例をあげると、「江戸川橋 新宿区山吹町『みつぼ』」。
この程度の情報しか、書いていない。
細かい住所、地図、営業時間、電話番号などのデータは一切なし。
グラビアの写真もなし。

しかし、今時のネット社会では以上の情報だけで店のデータが検索できてしまう。
困ったものだ。
便利だけど。

ちなみに、藤木TDCには単独で似たテーマで『場末の酒場、ひとり飲み』(ちくま新書)を書いている。
ぐっと落ち着いた渋い作りの、これも良書である。

イメージ 2