先週末は映画は観なかったので、10点映画シリーズです。
あと2本。

『ツィゴイネルワイゼン』
1980年鈴木清順監督作品。原田芳雄、藤田敏八、大谷直子、大楠道代主演。

原作は内田百けんの『サラサーテの盤』でタイトルはその曲名からとったもの。
舞台は大正時代、4人の男女を巡る生と死の危うい狭間を、妖艶な美しい映像で綴った作品。

劇中で実際に死に至るのはそのうちの二人であるが、
生き残った者が死者に翻弄される。

10点作品の中でシュールなアート系日本映画と言うことでは『田園に死す』と共通する部分はある。
そちらは、監督が異業種から映画製作に乗り込んだ寺山修司だったのに対し、
鈴木清順監督は、元々は古くから日活のプログラムピクチャーを量産して来た、
映画企業内の職人監督である。

そんな日活時代から一風変わった演出を徐々に見せだし、一部の熱狂的ファンも獲得。
しかし日活側は「わけの分からない映画を作るな」と、1968年に鈴木監督を解雇。
そんな日活側の暴挙に、ファンも評論家も怒り抗議したと言うらしい。
そりゃそうだろう。

その後しばらく辛酸をなめた末、思う存分好きな事が許されて製作された作品がこれ。
いわゆる「清順美学」に溢れた映像。
かつての企業側からの規制も受ける事もなく、監督の才能を思う存分発揮した傑作となった。

公開時期は、丁度個人的に映画に興味を持ち出した頃。
ちょっと年上の映画マニアたちに熱狂的に受け入れられての登場だった。
まずは、鈴木監督の風貌。
白い長髪と白い口髭。どこか、永らく山に伏していた仙人のようだった。
しかし、当時まだ56歳

この作品の成功を受け、鈴木監督はさらに松田優作も出演する『陽炎座』を製作。
予告編などの映像を観ると、『ツィゴイネルワイゼン』以上に凝った華麗な映像を見せて、
さらに期待は高まった。
果たしてその出来は?
確かに、部分部分での映像の出来は素晴らしかった。
しかし、内容が混乱しているように感じられて「???」。

さらにその後も、順調に「清順美学」にあふれる新作を作って行くのだが、
どこか自己模倣のスパイラルに陥った怪作、と言った印象の作品が多くなってしまった。

かつてはバッシングを受けた映画企業の日活の「分からない映画を作るな」と言う、
あまりにも無粋な規制って、実は重要だったんじゃないか?
と思う、中年に至ったワシの密かな感想であります。


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