イラン系の作家の作品は、4年くらい前に読んだマーシャ・メヘラーンの『柘榴のスープ』以来2冊めなので、久しぶりです。

 

RFIのjouranalを読み始めて、宗教警察なるものが同時代に存在していることに衝撃を受けて手に取りました。

 

小学生の頃にイラン革命がありました。内容は全くわからなかったけれど、テレビ画面に映し出されるホメイニ氏の肖像と混乱した街の様子は強く印象に残っています。

 

『スモモの木の啓示』の著者であるショクーフェ・アーザル氏は、私とほぼ同い年。つまり、私が映像でみただけのイラン革命を、小学生時代に体験していたということになります。同世代の女性の目が見つめたイラン革命がこの本の中にはありました。

 

ゾロアスター教の自然崇拝は、仏教徒である自分にとっても違和感がなく、物語の世界にぐいぐい引き込まれていきました。それと同時に、この本で描かれる世界が非常に「物語」的であるにもかかわらず、SNSや動画配信なども織り交ぜられており、よりいっそう現在を生きる自分の心に深く浸透していくような心持ちでした。

 

美しい表紙や幻想的なタイトルとは裏腹に、主人公の過ごしている世界やその人生は壮絶なものであるのですが、現実と空想の区別があいまいなインターネットの存在や宇宙からの視点などによって、燃え盛る炎をみつめるときのような安心と静かな興奮が共存する独特の読後感をもたらす作品でありました。

 

翻訳者の方のあとがきによれば、作者は2021年冬現在次の作品を執筆中とのこと。次回作も楽しみです。

 

イスラム教社会にあってゾロアスター教を信仰する本作を読んでいて、数年前に読んだ本を思い出しました。滝口夕美さんの『民族衣装を着なかったアイヌ』という本です。滝口さんも私とほぼ同い年なうえ、同じ道東出身者。作品の中に出てくるアイヌ・コタンには幼い頃から何度か遊びに行っていました。それだけに伝わってくるものが多く、小学生時代の自分が抱えていた口に出せない空気への違和感のようなものが言葉にされていて、印象深い作品でした。この本を読んだあとに観た映画『アイヌモシリ』もとても美しい作品でしたので、おすすめします。