暇人草

暇人草

暇人がつれづれに世の中を観察する記録。
文化とは暇人によって支えられているのではないか、という仮説のもとに書いている。

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五彩青手を始めてから、いつか本場の金沢へ行きたいと思っていた。
本場の器を見たい。
窯元を見たい。
できれば金襴手や赤絵も見たい。
そういう話を、かれこれ1年半ほど言い続けている。
たぶん夫は、五彩青手にさほど興味はない。
しかし私は、根気よくデパートの食器売り場へ連行し、マイセンやヘレンドの説明に紛れて、和食器コーナーにも誘導していた。
「これは九谷」 「これは赤絵」 「これは金襴手」
などと、隙あらば布教している。
人間、だいたいのことは慣れである。
そして先日、とうとう金沢旅行の話を取り付けた。
長期布教活動の成果である。
なお私は窯元を見たいし、器も見たいし、金襴手も赤絵も見たい。
そして夫にも、さらに布教したい。
旅行の目的が若干ずれている気もするが、その辺はいつものことである。

夫とは、もともとクラシック音楽の趣味が共通していた。

そもそも大学生の時に音楽のサークルで知り合った縁である。

コンサートへ行ったり、CDを買ったり。
音楽については、比較的最初から一緒に楽しめていたと思う。
しかし、美術館にはそれほど興味がなかった。
「何を見ればいいのか分からない」
という、ごく一般的な反応である。
一方の私は、作品制作の参考も兼ねて、美術館へ行くのがわりと好きだ。
なので、気になる展示があるたびに、半ば連行するような形で夫を付き合わせていた。
最初の頃の夫は、正直かなり暇そうだった。
だが、人間というのは不思議なもので、何度も行っているうちに少しずつ変わる。
「この展示は前のより好き」 「この色使いは面白い」 「これは意外と見やすい」
など、自分から感想を言うようになったのである。
最近では、展示ポスターを見て
「これ行く?」
などと言うこともある。
成長である。
結局、物事の多くは「慣れ」なのだと思う。
美術館も、食器売り場も、ハイブランドも。
最初から興味がある人ばかりではない。
ただ、何度か触れているうちに、少しずつ「分かる側」へ移動していくのだろう。
今でこそ、
「マイセンのフクロウがどうこう」
「金彩がどうの」
という話に付き合ってくれる夫だが、最初は食器売り場そのものが無理だった。
理由は単純である。
「間違って壊したら大変だから」
高級食器売り場という空間に、かなり緊張していたらしい。
確かに、並んでいる値札を見ると気持ちは分からなくもない。
しかし私は、そういう場所は慣れだと思っている。
なので、デパートへ行くたびに夫を食器売り場へ連行し、
「マイセンがどうの」
「ヘレンドのバラがどうの」
と横で言い続けた。
夫は最初、かなり居心地が悪そうだった。
だが、人間というのは不思議なもので、何度も連れて行かれると少しずつ慣れる。
最近では、自分からフクロウの置物を眺めたりもしている。
成長である。
なお、最終目標はティーセットだが、それはまだ夫には伝えていない。
今は「マイセントレーニング中」の夫だが、
実はその前に、1年ほどかけて慣らしたブランドがある。
Diorである。
最初に買ってもらったのは財布だった。
とはいえ、財布は本丸ではない。
ハイブランドの中では、比較的手を出しやすい価格帯の商品である。
ちょうど長く使っていた財布に不具合が出ていたこともあり、
「今しかない」と思い、じわじわ説得を続けた。
そして、なんとかDiorで財布を買わせることに成功した。
翌年には、今度はスカーフを買ってもらった。
おそらく夫の認識では、
あれは「ただの正方形の布」である。
まあ、それでよい。
夫は、理論でブランド価値を理解するタイプではない。
慣れで突破するタイプなのだ。
一度「ここで買い物をしても大丈夫」という感覚を覚えると、次からの抵抗がかなり薄くなる。
だからまずは財布。
次にスカーフ。
少しずつ、「Diorで買い物をする」という行為に慣れさせていく。
なお、現在の目標はバッグである。
長期戦だが、こちらも着実に進行中だと思われる。
引っ越しの時、オーダーカーテンが届くまで二週間ほどかかる、という話を知人男性にしたことがある。
すると彼は真顔で、
「カーテン、ニトリで売ってるよ」
と親切心から教えてくれた。
もちろん知っている。
むしろ、こちらとしては
「ニトリにカーテンが存在している」
くらいのことは把握した上で話している。
ただ、彼の中ではおそらく、
・カーテンがまだ届かない
・つまり窓に何もない
・それは困る
・ならばニトリへ行けばよい

という、極めて合理的かつ実用的な思考で、あくまでも良かれと思って教えてくれたのだと思う。

しかし一方の私はというと

別に「とりあえず光を遮る布」が欲しかったわけではない。


部屋の雰囲気、壁紙との相性、光の入り方、柄。
そういうものを含めて、空間を作りたかったのである。
ちなみに夫のカーテン選別基準は
「遮光性」と「防火性」だ。
以上。
柄、世界観、部屋との調和。

そういう概念はあまり存在しない。

たぶんニトリのカーテンで十分だと考えるタイプだ。


しかし私はモリスのカーテンにしたかった。
毎日視界に入る布を、
「安いから」「機能的だから」だけで決めたくなかったのである。
結局、なんとか説得してモリスにした。
今では夫も特に文句は言っていない。
人間、毎日見ていると慣れるのだと思う。
ただ、たまに思い出す。
「カーテン、ニトリで売ってるよ」
あまりにも正しすぎるアドバイスだった。