自分の衣類の匂いは、判別できなかった。
本当は、判別する必要もなかったが、
毎日、他人の衣類の匂いを嗅いでいると、
自分の衣類の匂いが、気になった。
けれど、それは、わからなかった。
自分の家の匂いが、判別できないのと、似ていた。
「生活とは、そういうものなのだ。」
と彼女は独り言を言った。
いつか、彼女の父親が彼女に言っていた言葉を
思い出した。
「そんなことを考えてばかりでは、生活はできない」と。
「そうなのだ」と、彼女は、思い返した。
「そんなことを考えてばかりでは、生活はできない」と、
繰り返して、言ってみた。
「だから、他人と一緒に暮らせない。」
彼女は、その仕事をするにあたって、
2つのことが、懸念された。
一つは、お金の問題である。
お客さんとお金のやり取りが発生する。
何かあったときに、自分が疑われる。
そのために、彼女は、
お金を受け取った時と、
お釣りを返す時に、2回声を出して、確認するようにした。
もう一つの懸念は、
男性のズボンを
持ってこられることであった。
彼女にとって、
男性もののズボンは、
用を足している姿を、想像させた。
男性が、用を足す際に、
最後に、振り切り、
その尿が、ズボンについているのではないかと、
彼女は考えたのである。
男性もののズボンがクリーニングに出された後、
彼女は、必ず、手を洗った。